遥か先にある背中を追いかけて
「シッ、ハッ、セア!!」
拳を叩きこみ、短剣で切り裂き、蹴りを振り下ろす。
相手が目の前にいるかのようにイメージして戦う。
ラガス様から教わった練習方法ですが、未だに完全に出来ているとは言えません。
「ラガス坊ちゃまがシャドーはもっとこう・・・・・・迫力があると言いますか、命がけで戦っているように見えるのですが、私にはまだまだその辺りが足りないのでしょうか?」
ラガス坊ちゃまやミーシャさんとの摸擬戦。戦いこそすれど全て寸止め。
屋敷の外に出てモンスターと戦うにしても、命の危機を感じる程の戦いは今までに無かった。
自身の力で十分に対処出来る相手としか命を懸けた殺し合いはしていない。
それはラガス坊ちゃまも一緒な筈・・・・・・とうより、私より断然森の浅い部分のモンスターでは物足りない筈です。
もしかして私が知らない間に森の奥の方まで行ってランクが圧倒的に高いモンスターと戦っている!?
・・・・・・いえ、それはないですね。ラガス坊ちゃまがモンスターと戦う様になってから私が毎日ご一緒していますし。
「ふぅーーーー、本当に謎が多いご主人様ですね」
「やっぱりメリルちゃんもそう思うわよね」
「わひゃ!!??」
突然声をかけられたので変な声が出てしまいました。ちょっと恥ずかしいですね。
後ろを振り返るとそこには奥様が立っていました。
考え事に集中していたせいで近づいてくるのに全く気が付きませんでした。
「お、奥様・・・・・・驚かさないでくださいよ」
「あら、そんなつもりは無かったのよ。まぁそれは置いといて、確かにラガスは謎な部分が多いわよね。決して悪い子っていう訳では無いのだけれど」
確かに悪さをするような性格では無いですね。偶に心配させられる事はありますが。
「それでね、メリルちゃんはラガスが学校を卒業してハンターになってからも付いて行くのよね」
「勿論です。そのために毎日欠かさず訓練を行い、実戦での動きが鈍らない様にモンスターと戦っていますので」
「そ、そうなのね・・・・・・メリルちゃんはラガスから離れて自由になりたいとは思わないの?」
ラガス坊ちゃまから離れる? ・・・・・・奥様は何を仰られているのでしょう?
私がラガス坊ちゃまのそばを離れるときは極限られた状況のみ。その他の理由でラガス坊ちゃまの傍から離れるというのは今は勿論、これからもあり得ないでしょう。
「少し前、というか最近になって同年代や少し年上の子から告白される事が多くなったでしょう」
「・・・・・・その事をどこから聞いたのかはお聞きしませんが、確かにそうですね」
最近街の同年代の男子や兵士の子供からずっと好きだった、一目惚れだ等と言われて告白されることが増えてきました。自分に好意を持ってくれているというのは嬉しい事ですが、正直興味はありません。
「良いな~~~って思った男の子はいなかったの?」
「一人もいませんでした」
「・・・・・・そう。少し話は変わるけどね、私はラガスの傍にいる人は苦労が絶えないと思うの。本人は目立つのを、面倒事を避けようとしているけれどいずれどこかで目立ち、面倒事に巻き込まれる。いえ、根はやさしい子だから自ら面倒事に向かっていくかもしれないわ」
それは否定出来ない事実ですね。ラガス坊ちゃま程の実力を持つ者ならば望まずとも貴族や商人等の権力者が黙っていない筈。
それに・・・・・・ラガス坊ちゃまの実力ならば、降りかかって来た面倒事も力尽くで解決する事も可能でしょう。
「そうなったとしてもラガスにはそれらを解決・・・・・・と言うよりは無理やり捻じ伏せる事が出来る。ただ、そうなると傍にいるメリルちゃんにも火の粉が降りかからないとは限らないのよ。勿論ラガスの傍にいてくれるのは嬉しいの。でも、確実にメリルちゃんが幸せになるかは分からないの」
・・・・・・奥様は本当にお優しい方ですね。私の様な一介のメイドにまで気に掛けるなんて。
ただ、私の気持ちは一向に変わりません。
「私の将来を心配してくださるのは嬉しいのですが、私の気持ちは変わりません。寧ろラガス坊ちゃまが面倒事に巻き込まれ、望まぬ事態に直面する時こそ私が支えなければと考えています」
というか、そうでなければ今までのように一般的なメイドが行うような訓練は致しません。
「それに・・・・・・私もラガス坊ちゃまに感化されたのでしょう。目立つのは避けたい、面倒事には巻き込まれたくない。でも・・・・・・退屈な日常は送りたくない、私はそう思っています。なのでこれからも私はラガス坊ちゃまの背中を追いかける事を止めません」
「・・・・・・・・・・・・ふぅーーーー。全く、ラガスもこんな可愛い子にそこまで思って貰えているなんて本当に幸せ者ね」
奥様は少々勘違いしている気がしますが・・・・・・そこは突っ込まないでおきましょう。
・・・・・・・・・・・・現実にならないとも限りませんし。
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