282.アキラ、渡る。

 「ヺォオオッ!! 」




射たバイソンが鈍い唸り声を上げる。矢の確かな手ごたえを感じるが、バイソンは矢が刺さったことなど気にも留めず、周囲を警戒する。




そして、物陰に隠れていた僕に気付いたのか、興奮気味にこちらに向かってくるではないか!!




慌ててハチを抱えて全力疾走する。しかし、野性のバイソンの方が数倍速く、すでに距離を縮められていた。




ハンターセンスが警告音を発する。




察するに、奴が僕に向かって突進してきたことは、容易に想像できた。




「宿主、あの木に登ってください!! 」




言われるがまま、ハチを抱きかかえた、猛スピードで大木によじ登る。




間一髪、バイソンが大木に突撃し木全体が揺れる。まともにあれを喰らっていたら、危なかったと思うも束の間、




バイソンは、もう一度大木に突進を仕掛けてくる。




『ドォーーーーン!! 』




と木が激しく揺れる。




そして、下から嫌な音がし始める。




『バキッ!! バキバキバキ・・・。』




これはもしやと思った時には、もう木は音を立てて傾き始めていた。バイソンは最後の駄目押しで、木に突進してくる。




木に激しい震動が加わったかと思えば、斜めに倒木しはじめる。しかし、ここで落ちてしまえば、バイソンに突進されておしまいだ。




無我夢中で、倒れる木の幹を全速力で駆けあがる。




スキル【平衡感】の補助もあって、まるで、平行棒を渡るかのように、自分でも驚くほど器用に駆け抜け、別の木に移る。




その様子を見ていたバイソンは、突進をやめてじっとこちらを睨みつける。どうやら、これ以上突進しても無駄だと理解したのか、




「バォォォッ!!! 」




と警告音を発して、仲間の群れがいる場所へと戻っていくのであった。




 その様子を見ていた僕たちは、呆気にとられたまま、ズルズルと無言で木を降りる。




「・・・・・・。」




「宿主・・・? 」




「精霊さん、あいつどうやったら狩れると思う? 」




そう質問してみる。精霊さんは少し考えて、




「やはり、弓矢の改良が必要と感じられます。今回は、矢の威力不足により、バイソンに致命傷を与えられなかったのでしょう。」




的確なご指摘に、やっぱりかと思う。




今の弓矢では、あのバイソンは狩れない。どうにかして、矢の威力をパワーアップする必要がある。しかしながら、弓矢はこれ以上改良の余地はあまりない。




ならば、別の方法で威力を上げる必要がある。矢尻の形を変えるのか・・・、いや、それでも威力はあまり上がらない・・・。




そうして、あれでもないこれでもないと考えていると、ふとアイディアを閃く。改良するのではなく、付け足せばいいのだ・・・。そうして、その発想からある手段を思いつくのであった。


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