207.アキラ、勝負する。

 逃げたイノシシを追跡していく中で、驕りを完全に捨て去り、初心を思い出す。牡丹鍋食べたい! その一心でイノシシを追いかけていく。




持っている力のすべてを使っていく。イノシシの足取りは、間隔が広く早足であることが、見てとれる。これは、根競べだ。




先に向こうが、警戒心を解くか、こちらが根負けするかの勝負だ。人間のしぶとさを、見せてやろうではないか!! 




そう思い、粘り強く足跡を追っていく。しかし、向こうは野性のイノシシ。こちら側のことなどお構いなしに、切り立った急斜面を駆けあがっていく。




「宿主、ファイトです!! 」




精霊さんに、励ましのエールをもらいながら、急斜面を登っていく。その次は、藪の中を進んでいく。そうして、追いかけていく。




 そして、先ほど、仕留め損ねたイノシシが、無警戒に地面に寝そべっているのを発見する。




「やっと・・・、追いついた・・・。」




今度は、外さない。そう思い、慎重に慎重に近づいていく。そうして、矢の射程範囲内に入る。




そして、ルーチンワークのように矢を取り、電流を流しこむ。そして、弦を引き、狙いを定めて、射る!! 




この時、風は吹いておらず、矢は何物にも影響を受けず、一直線にイノシシ目掛けて、飛んでいく。




矢は、イノシシの耳辺りの肉を抉り、突き刺さる。その直後、電流がイノシシの身体を駆け巡り、身体を麻痺させる。




「ピギィ!! 」




と悲痛な鳴き声を上げる。僕は、その声を合図に、駆け寄り喉元にナイフを突き立てる。イノシシの身体が強張る!! 




何が起こったかわからない様子で、恨めしそうな目が、生気を失っていく。




「ピぎぃ・・・」




弱々しい声を出す。喉元からあふれ出る血潮ほど、動かなくなっていく。次第に、強張っていた身体から、力が抜けていき、イノシシの頭が下がっていく。




そうして、頭が地面に横たわった時に、仕留めたことを確認する。すぐさま、身体を持ち上げて、全身の血を抜いていく。




そこからは、鹿を解体する要領で、腹を裂いて、内臓を取り出す。そして、少し重い、イノシシの死体を担ぎ、近くの沢へと向かうのであった。




 沢についた時には、もう夕方になっていた。すぐに、死体を冷やしていく。その間に少し休憩する。




そうして、少し冷された死体を担ぎ、家を目指してえったらほったら、と掛け声をあげながら、歩いていく。




家につく頃には、日はすっかり沈んで、辺りは月明かりが照らして、幻想的な風景へと様変わりしていた。




「ただいま~。」




と家のドアを開けると、皆は夕食の準備を始めていた。僕が帰えるや否や、担いできたイノシシに、皆の注目が集まるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る