171.アキラ、名付ける。

 今、僕は懐いてくれた狼の名前を考えている。毛皮は、この森に溶け込むため、地味で目立たない灰褐色をしている。しかし、その毛並みは、美しくまだ若さを感じさせるものがある。




ならば、若そうな名前をつけようかと考えるが、狼の威風堂々たる佇まいに、その考えが揺らぐ。古風な名前も似合うと考える。




その面構えは、威厳ある佇まいだが、どこか危うさを感じさせる若さを感じさせる。その身体は、溢れんばかりのエネルギーが逞しさを醸し出すが、可愛さが少しある。




う~~ん、名はそのものを現すとも、言われているので、下手に洒落た名前はつけられない。かといって、固すぎる名前も、かえって似合わない。




名付ける者の感性が試される。




名前、一個に頭が熱を帯びそうなほど、悩む。呼びやすい名前がいい。この狼を、猟犬として連れていく際に、長い名前だとかえって、不便だ。




少し、違うもの意見も、取り入れよう。




「精霊さん、何かいい名前はない?」




そう言って、精霊さんに意見を求める。




「そうですね、ウルフなどという名前はどうでしょう。」




「ああ、ウルフね・・・なるほどね・・・。」




と僕は、その意見を参考にしようとする。




ちょっと待て、真剣そうに考えている風を装っているが、多分、僕の記憶を閲覧して、それっぽいことというか、そのままじゃねぇか!と後から気付く。




多分、精霊さんには、こういうことは向いていないのだろう。仕方ないので、自力で考える。




う~んと頭を、悩ませる。その様子に、狼も首を捻っている。本人に、直接聞ければ、いいのだがそういうのは、できないので、なんとも言えない。




 段々と、候補を絞っていく。そして、ふたつの名前が最終的に残っていく。




「灰色・・・で威厳ある名前・・・ハク・・・いや、違う。可愛い名前・・・ポチ・・・そういう柄では、ない。」




ハクかポチ、そのどちらしようかと悩む。悩む。決めきれない。




ハク、ポチ、ハク、ポチ、ハク、ポチ、ポチ、ハク、ハク、ポチハク、ハクポチ、と先ほどから、声に出してみるが、いまいち双方ピンと来ない。




何かが、どっちも足りない。ハクはかっこよすぎて、可愛さが足りないし。ポチは可愛すぎて、威厳が足りない。




どこかに、妥協案を考えないと、永遠に悩みそうになる。そうして、両方の名前を連呼していると、こんがらがってきて、




終いには、合体して、ポクハチと言ってしまう。その時、ハっと閃く。そして、声を上げて、狼に告げる。




「これだ! 今日からお前の名前は「ハチ」だ! 」




その言葉に、狼も




「ワン! 」




と答えたような気がする。「ハチ」という名前、どこか可愛さも感じつつ、古風な名前。気に入る。そして、その名前に意味を込める。




そう、あの忠賢、ハチ公にあやかる。どうか、賢く、主人に忠実なもので、あってくれと、願いを込めるのであった。

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