170.アキラ、飲水を確保する。

 つぶらな瞳が語りかける。もっと肉をくれと、その眼差しに負けそうになる。




「宿主、これ以上は駄目ですよ! 駄目です! 」




精霊さんの必死の抵抗むなしく、




「お~し、おいで、ほらお食べ。」




ともうひと切れの肉を、手前に投げてやる。狼がこちらに近づいてくる。もう警戒した様子もなく、完全に気を許している。




少し手を伸ばせば、撫でれそうなほどに、接近してくる。ならばと思い、恐る恐る手を伸ばす。




狼も、手が近づいていることを感じとっているのだろうが、何もしてこない。そして、僕は狼の頭を撫でることに成功する。




温かな体温が手に伝わる。おお、これが狼の感触かと不思議に思う。少し臭うが、可愛いものだ。狼も、尻尾を振りながら、目を細めている。




「おお、ヨシヨシ、気持ちいいか?」




そうして、撫でていると狼は、ついには寝そべる。




「精霊さん、もうこれ、完璧に懐いたね。」




そう精霊さんに言うと、




「その可能性が高いでしょう。しかし、宿主、この後ちゃんと手洗いしてくださいね。野性の狼ですから、ばっちいですよ。」




とまさかの注意を受ける。まぁ、確かにその通りだと思いながら、僕は、撫で続けるのであった。




 一通り、撫で終わった後、僕は立ちあがり、手を洗いに沢へと向かう。狼もその後に、ついてくる。




「おお、お前も洗うのか?」




と聞く。答えはもちろん返って来ない。そうして、沢の水で、手を念入りに洗う。感染症怖いからね! 




狼も、近くで沢の水を飲んでいる。食べた後だから、喉が渇いたのだろう。勢いよく舌を器用に使いながら、飲んでいる。




「そういえば、そろそろ持ってきた水が、尽きそうだったな・・・。」




と飲み水のことを思い出す。すぐさま、拠点に戻って、持ってきていた壺3つと、清潔な布、もらった木炭を準備する。




持ってきた壺で、沢の水を掬い、それを拠点に持ち帰る。まさか、そのまま飲むわけではない。ボーイスカウトで、習ったことを思い出しながら、やっていく。




まず、初めに持ってきていた壺に、石で割れないかとひやひやしながら、慎重に慎重に、小さな穴を開ける。




次に小石を入れ、その次に砂を投入、さらにその上に、木炭を粉々にしていれる。また砂を投入し、最後に清潔な布をかぶせれば、簡易的な濾過器の出来上がり! 




大きめな壺の上にそれを設置し、沢の水を流し込む。そして、何回か、濾過をして、後は、火にかけて十分ほど煮沸する。




あとは、冷ましてこれでやっと、清潔な水の完成である。この時ほど、皆の飲み水を、魔術で確保してくれていたアルテシア大納言様のありがたさを実感する。




「はぁ・・・、皆がいないとこんなに、苦労するなんて・・・。」




と独りごとを呟きながら、まだ暑い白湯を少し啜っていると、狼がトボトボと拠点に帰ってくる。




これには、さすがの精霊さんも、




「宿主、この様子だと、完璧に懐いたようですね。 」




と感想を述べる。そのまま、どこかに行ってしまうかと思っていた狼が、戻ってきたことに、対して僕は、驚きを隠せなかった。




そして、これから共に行動する、狼君の名前をどうしようかと考え始めるのであった。

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