153.アキラ、火をつける。

 その言葉に耳を疑う。




「ユラという少女を誘拐して、どうするおつもりですか?」




そう質問せざる負えなかった。返答次第では、ウグリナスを葬るつもりだ。




「ユラを殺しはしません。その変わり、この娘を交渉の材料して、アクリバートンを脅すつもりなのです。詳しくは、ユダイから聞いてください。」




なるほど、感情に訴える方法を取るわけね。その作戦、概ね合意しユダイの元へ急ぐのであった。




 指定された場所に着くと、ユダイさんが現場に待機していた。




「ああ、ライト様。ウグリナス卿から、話は聞いているようですね。こちらが、このアクリバートンが住む邸宅の地図です。この地図を手に入れるために、大金を支払いました。どうか、失敗しないでください。」




その地図を拝見し、スキル【目的地】でインプットする。そして、数十秒後、完全に地図を記憶する。




「ユダイさん、もうこの地図は覚えました。」




そう言って、ユダイさんに地図を渡すと、彼は驚いた様子でこちらを見る。




「アキラ様、私は顔がバレているので近付けないのですが、あなたなら、ユラ殿に顔はバレていない。ですので、どうか穏便に彼女を連れだしてください。もうこれ以上、人が死ぬのを見たくはないのです。」




この不毛な争いに、飽き飽きしている人もいるようで、ユダイさんはハト派のようだ。僕もだよと思いながら、ユダイさんから離れて、屋敷に近づく。




さぁて、どうやって、誘拐しようかと悩む。


 そして、夜。決行の時が、来た。




僕は、夜の街を颯爽と駆ける。そして、背中に翼があるかのように、屋根を飛び越えていく。しかし、アクリバートン邸の屋根に警備の兵士が待ち構えていた。




ユダイさん、どうやら約束は破りそうです。そう思い、矢を手に取り、屋根にいる兵士の頭を狙い、放つ。




『プスッ』 『プスッ』 『プスッ』




どうやら、ここにきて、弓術の腕が一段上がってきたようで、順調に兵士を黙らせていく。そして、大ジャンプをして、屋根を飛び移る。




その音に、下の兵士たちが気付く。やばい、急がないと、




そうして、ユラの部屋に到着する。どうやって、彼女を運ぼう。すると、精霊さんが、いいアイデアを提案してくれる。




「宿主、ビリっと電気を流して、連れ出しましょう。」




それだ。と思い、あいさつ代わりに電流ショックを流す。




「うっ・・・。」




とユラが小さな苦痛の音を上げる。あいさつ代わりに電気を流したことを心の中で謝りながら、彼女を担ぎあげる。




しかし、辺りが騒がしくなり始める。どうしよう、このまま、出れば確実にバレる。八方ふさがりになってしまう。




ヤケでもなんでもいいからと考える。




「ヤケ・・・、いいこと思いついた。」




精霊さんは、その考えにまたドン引きする。




「宿主、少しサイコパス染みてきましたね。」




我ながら、ちょっと狂っているが、今思いつく案で一番マシな案だ。そう思い、ユラの身体をシーツで巻き、リュックサックの要領で担ぎあげる。




そして、ユラの部屋に、電流を流し放火するのであった。




その炎は段々と大きくなっていく。それを見届けて、僕は堂々と玄関から逃げ出す。




幸いなことに、人の目は炎の方に目が行き、こちらには気付かない。そうして、混乱に乗じて、夜の町に消えるのであった。

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