65.アキラ、観察される。
落石にもめげず、馬車を進ませる。気が付くと、道は段々と広くなりつつある。大分、運転も楽になってくる。後ろを振り返ると、今日出発した場所がかなり遠くの方にあった。
「このまま、順調に進んでいけば夕方くらいには峠を超えれそうね。」
とイリスが地図を見ながら教えてくれる。
もう落石などのトラブルは勘弁してほしいものだ。
テラが助手席に座り、竹みたいな植物の水筒を渡そうとしてくれる。
ずっと、朝から水分を取ってなかったので、ちょうどよかったのだが、今、ちょうど手綱を離せない状況で両手が塞がっていた。
「テラ、ちょっと水飲ませて。」
と口を開けて待つっていると、水筒を口に当て飲む。
水分が身体に染みわたるのを感じる。残った水はテラが口を当てて飲んでいる。
まだ、青春真っ盛りの少年・アキラはこの行動に興奮してしまう。テラの様子を運転しながら横目でチラチラと見るが、反応は無に近いものだった。
他のふたりを見ても、リアクションはなく、
「テラちゃん、私にも水を分けてもらえるかい?」
とイリスがその水筒を譲り受け飲む。ノーリアクションだ。僕だけが舞い上がっていた様だ。
どうやら、まだ間接キスなどという概念はこの世界には生まれてないようだ。それを知らず、ピエロのように一人劇場していたのを誰かにバレでもしたら、恥ずかしくて放電してしまいそうだ。
そんな様子を、アルテシアは見ていた。
些細のないやり取りをしたアキラ様が、いきなりチラチラと辺りを気にし初めて、顔を赤くしたかと思えば急にがっくりと肩を落としたのだ。
水の譲渡にアキラ様は、興奮されるのかと思ったアルテシアは、助手席に座りこむ。そして、待つ。
「アキラ様がいつでも水が飲めますように、待機するのです。」
と凛として座る姿は花のようだった。
しばらくの後、街道の遠くの方に大きな町が見え始めていた。峠はだいぶ下りきったといってもいいんじゃないだろうかとそう思っている時に、
「アキラ様、お水はいかがですか。」
とアルテシアが水筒を進めてくる。気がきくええ子やな。と思いながら、
「ごくごく、うん、ありがとう。」
と水筒の中にはまだ水は残っているが返却する。
アルテシアはその水を飲んでみることにした。
そうすると、アキラの目線がやはりチラチラするのが確認され、その表情は赤かった。
その時、アルテシアは直感する。この行為の裏には隠されたアキラ様しか知らない秘密があることを勘づく。次に、私の飲んでいる水筒を再度アキラ様に渡すとどうなるか、検証する必要があると考え実行に移す。
「アキラ様、のど乾いてないですかよかったらこれどうぞ。」
と私が口をつけた水筒を渡そうとする。
「えぇ!!いいの!それじゃあお言葉に甘えて飲んじゃうよ。」
アキラは、ワインを飲むかの如く、じっくりと香りを楽しみそして口当たりを楽しんでいる。
「これはいい水だ。」
満足感を得た顔に一辺の曇りもなかった。
その行動をつぶさに観察していたアルテシアは、この異界の常識に触れたことに寄り、アキラ争奪戦の突破口を見つけるのであった。
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