第五章 異能

41.アキラ、撃つ。

 急いで、ほかのものたちを起こす様に、テラにお願いする。




今、ここでへたに大声を出すと、向こうがなにを、しでかすかわからないので、静かに行動する。




僕は、じっと向こうを睨みつけつつ相手の出方を窺う。




すぐに皆、起きてくれて臨戦態勢に移行する。戦闘慣れしているカルラさんが、位置を交代してくれる。




僕はテラの近くで、いつでも守れるように身構える。




カルラさんやイリスが、呪文らしきものを唱え始める。




「「我、ここに願う。汝の力をここに示し給え。」」




従者のものたちも唱えると、刀身や武器に、各々炎や水の属性が付与されていく。




イリスは、氷のつぶてを自身の周りに展開する。まねをして僕も唱える。




「我、ここに願う。なん・・・」




「それでは、石を持ってください。」




と詠唱を待たずして、指示を受ける。




すぐに今の詠唱が、必要なかったことを理解する。




落ちている石を手に取ると、電気の魔術が、石に充填されていくのを身体で感じる。その後、精霊さんが補足説明をいれる。




「宿主、この技は一撃必殺なので、使いどころを考えて撃ってくださいね。」




 イリスが、氷のつぶてを藪の中に撃ち込む。それを合図に何匹かの小鬼らしき猿達が一斉に飛び出てくる。




それをカルラさんが、炎の刀身で斬る。




皆、戦いには慣れているようで、猿たちを倒していく。




戦況はこちらの優勢、このまま勝てると思ったが、藪の中から一匹の大きな猿が現れる。




親玉らしいその大猿は、カルラさんに向けて岩を振り下ろす。




カルラさんはなんとか防ぐが、十メートル先の木に飛ばされてしまう。




皆に緊張が走る。一瞬にして、戦況がひっくり返り、劣勢へと追い込まれる。




その大猿は、次の標的をイリスに定め、近づいてくる。カルラさんは、それに気付き、




「姫様、お逃げください。」




と全力で叫ぶが、イリスは周りを小猿に囲まれており、逃げようも逃げれない状態であった。




イリスもそれに気付くが、もう遅い! 岩を天高く振り上げられていた。テラが叫ぶ! 




「イリスさぁああん!! 」




皆がもう駄目かと思う。




 僕はこの瞬間、身体が、無意識にたった一発しかない必殺技を全力で、大猿の頭、目掛けて放つ。




しかし、石は頭ではなく、大猿の鳩尾に、閃光の如く駆ける。




そして、大猿の一撃が、振り下ろされる。それは仲間の小猿の脳天を貫く、否、正確には落ちたが正しいであろう。




大猿の首は地に落ち、そして、自分の身に起きたことを理解する。




胴体ごとなくなっていることを、死ぬ直前になってやっとわかったのである。




一瞬で、猿の身体がなくなったことに、残った小猿たちは怖気づき逃げようとするが、もうその小猿に逃げれる場所などなかった。




カルマさんや従者たちがそれを許さず、一匹残らず皆殺しにされていった。




後から聞いた話だが、この時、僕は気を失っていたそうだ。




まさに、一撃しか撃てない必殺技であることを僕は、消えてゆく意識の中で感じたのであった。

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