35.アキラ、嵌められる。

 巻物を広げるイリスは、どことなく妖艶な雰囲気が、醸し出されていた。


「これより、アキラと私の間で、契約を行います。まず、この契約書をご覧ください。」


「うん、なるほど、読めない!! 」


と僕は言うが、イリスは続けて契約を続ける。


「つまり、私とアキラ殿は、一蓮托生となるわけでございます。事が成るまでの仮契約でございますが、まぁ、今は時間もありません。さぁ、早くここに血判を。」


と言い、明らかに怪しい勧誘で僕に迫る。


ハンターセンスが、これは契約しちゃいけないと理性に働きかけるが、理性がここで断れば、どんな仕打ちが待っているか理解させる。


この女はやる時はやる女だと、どんなひどい手を使ってでも、契約させるだろうと感じたのであった。


「もう、覚悟をお決めくださいな。」


と僕の唇に指を当てる。


妖艶な仕草に心が動かれる。しかし、絶対これは契約しちゃいけない奴だとわかる。それゆえ契約はできない。


「やっぱりなs・・」


と言おうとした瞬間。先ほど僕の唇に当てた指から血が滴る。その血は、血判部分にピタリと落ちる。


そして、イリスがおもむろに、


「ここに契約は、成立しました。それでは、私とあなたは、一蓮托生の間柄になりましたね。


これは、破れない婚約の契約にございます。これより私と共に、王都に来てもらいます。」


と急転直下の展開に僕はついていけなくなったのである。


その後、僕の隠れ家に案内しろと迫られ、仕方なくテラの家へと案内する。


 案内している道中に、ふと疑問に思ったことをイリスに投げかける。


「ところで、さっきの奴らは始末しなくていいの?」


イリスを襲ってきた奴らの、安否を聞く。


「ええ、大丈夫でしょう。彼らは多分、引き返しましたでしょうし。


ここまでは、異邦人であるあなた様以外は、絶対これない領域です。私はあなたの血を飲むことで、ここに居られるのであります。」


とありがたい説明を聞く。そして、次になぜ婚約したのかを尋ねる。


「急な婚約で、ありましたこと。誠に申し訳ございません。何分、わたしも初めてでしたので。」


と急にしおらしくなり、事の顛末を話してくれた。


「私は、王都の第一王女、つまり現女王陛下の娘にございます。え、


最近、年頃になった私の結婚相手を探しが始まりました。名乗りを投げたのが、隣国の遠縁の王子アルディカという者。その王子の歳は老境の域にあり、この結婚も謂わば、政略結婚というわけでございました。


異邦人の血を、薄めてはならないという、言い伝えのもと、私はこの申し出を、受けようと考えました。どうしても、夫となるものの心境を知りたくなりました。」


語るイリスの顔は悲痛に満ち、己の悲運を嘆くようであった。


「そこで、私は使いの者を放ち、真意を調べました。


しかし、アルディカは結婚により、この国を乗っ取る正当性を得て、この国を裏で操ろうと考えていたのです。


はなから、私との結婚など、ただの乗っ取りの手段でしか、ございませんでした。


そして、私を亡き者にして、別の王女を招き入れ、自分の子供に家督を譲るつもりなのです。」


 アキラには、政治はわからぬ。だが、イリスが可哀想なことだけは理解できた。


「それで、私はなんとかこの結婚を無効にしたく、異邦人の血が濃い婿探しを始めたのであります。


まずは、配下の占い師に探すべき場所を聞きました。すると、この白神村周辺を指したのです。


そこで私は数人と配下と共に白神村に訪れようと思っていたのですが、そこに村はなくアルディカの放った奴らに、追われてこの森に迷い込んでしまったという、訳でございます。」


と落ち込みながら、話してくれた。


「それで、配下の人たちはどうしたの?」


と聞くと、イリスは答える。


「はい、ここは境目の近く故、彼らは私ほど、血は濃くないので付近の村に待機させております。


ですが、どうやら運命の人は見つかったようですので、さぁ早く王都に行きましょう。


これで結婚を解消できれば、あなた様は自由の身となれます。」


そうイリスは嬉しげに話すのであった。

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