Ⅳ.アキラ、兎を狩る。
翌日、僕は矢に適しそうな低木を求め、森に柴刈りに出かけた。
ここまでずっとテラと一緒に行動していたので、久しぶりの単独行動になんとも言えない解放感を覚えた。
出発する際、泣きそうな顔をしていたが、木を切ってくるといったジェスチャーをすると、
「ルルーツリニキオレイルマ」
と懇願するような顔をした。
ただ木を切りに行くだけなのに、よほど心配症なのだろう。見ず知らずの人をここまで、大切に思ってくれるあたり、とても優しい子なんだろうと思う。
やはり、テラはめんこい子だなという結論に至る!!
さて、気を取り直して森まで歩いて来て、ちょうどいい細くまっすぐした木を探していく。
「木を探す~~。モリモリゴー、モリモリゴー。」
と軽快なリズムが、口から出てくる。
久しぶりの自分だけの時間、良い具合の木を探す。そのうち、直線で初心者でも、切りやすい太さの木を発見する。できるだけ、長く直線の部分を石で削っていく。
『キコキコキコ』
とこれが、けっこうなかなか切れない。すぐに切れるだろうと思っていたが、見当違いに時間がかかってしまった。えっこらよっこらやっていき、
『パキ・・・パキパキ。』
とやっとの思いで木を切る。あたりにある何本の低木も、同じように切っていく。
「木を切るよ~~。コリコリゴー、コリコリゴー。」
と歌いだすぐらいに切り始めた頃、手前の茂みがガサガサッと揺れる。アキラもそれに気付き、
「木を切るよ~~。コリコリフォォオオオオオオ!! 」
と驚いてしまった。
茂みの動物も突然の絶叫に驚いたのか、逃げていく音がした。
心底、びっくりする僕は、もう充分なくらい低木を切ったことにして急ぎその場から離れるのであった。
∴ ∴ ∴ ∴ ∴
家に帰る道中、後ろからテラの呼ぶ声に気付く。
「アキラ~~、アキラ~~!! 」
とテラはかごいっぱいに木の実や山菜などを持っていた。
「アキラ、ココケムラ。ケムラ。」
と、嬉しそうに見せてくれるのであった。まぁ、あんためんこいねぇ~~と、おじさんみたいなことを考える。
家に帰宅すると、さっそく持ってきた木を、矢の長さほどに切り揃える。
そして周りの木の皮を剥いでいく、その作業が終わると、矢尻を火で炙り、尖らせるように石で削っていく。
納得のいく矢を一本作るのに、かなりの時間を費やしてしまった。試しに、矢を撃ってみることにした。
「ふーーん、フッン!! 」
と弦をひっぱり手を離す。
すると、矢は一直線に伸びるが、途中から急に上を向きそのまま落ちる。
「・・・はぁ?なんで?」
その疑問にぶち当たる。しばらく、考えてみる。もう一回撃ってみる。そして、何かが足りない。
矢に何かが、足りないことに苦悩しながら、考えた末に辿りついた結論は、羽根だった。
その時、初めて、羽根の存在理由を理解した。羽根は飾りではなく、翼のような役割をしていたのだ。
さっそく、羽根らしきものを探し出かける。テラに鳥のジェスチャーをしていそうな場所を聞く。
「ア!! グウェッテ、グウェッテ。ウェオ。」
と答え、湖の方を指さす。僕、ウォ!! とびっくりはしたものの、その意味を理解し、頭を下げその場を後にする。
∴ ∴ ∴ ∴ ∴
湖に来ると、反対側に鴨らしき鳥の姿を発見する。
よぉ~~~く、目を凝らしてその姿に驚愕する!!
見るからになぜかくちばしが真っ白なのだ!! そしてなによりその形だ!! ニンニクを思わせるような形!!
そして、明らかに、見るからに、くちばし以外の体色が緑!! 全部緑!!
「まんま、カモがネギを背負ってくるならぬ・・・。ガァーリックって感じだな・・・。」
もしも、生態系渾身のオヤジギャグに思わず苦笑する。
気を取り直して、ガァーリック(仮名)にゆっくりと慎重に近づいていく。今日の晩御飯は、カモ鍋よ!! と意気込み、全力で石を投げる。
「グワーッ! グワーッ! グワーッ! 」
殺気に気がついたのか一斉に、ガァーリック達が飛び立つ。だが、運よく、そのうちの一匹に石がクリーンヒットする。
しかし、タフな野性だ! そんなことでは、撃墜されず、ふらふらとしながらも飛んでいった。僕は、存在がオヤジギャグの彼らが飛んでいくのを茫然と、ただ見上げるのであった。
でも、収穫もあった。ヒットした奴の羽根が、何枚か水面に落ちていたのであった。
その羽根も当然の如く、にんにくのように根元は白色で、上に上がっていくほど濃い緑になっていく。
そして、特質すべき点はその匂い・・・。めっちゃニンニク臭い・・・。もしかして、これ食べれるのかな・・・。
そう思いながら、その羽根をよく洗ってすこしかじる。
「うん・・・。にんにくの味がする。」
だが、このままだと匂いで獲物に気付かれてしまうため、何度も水で洗ってその匂いが薄めていく。
それを回収し、乾くの待ちながらまた矢を作る。そのついでに、木の皮で簡単だが矢袋も作った。
∴ ∴ ∴ ∴ ∴
そしていよいよ、矢に羽根を蔓などの紐で結びつけて、完成する。見た目は不格好で少しニンニク臭を感じるが、まぁ、矢は完成した!!
試しに撃ってみると先ほどとは違い、遠くまで飛んでいき、
「バフッ!!」
と木に突き刺さる。これなら、殺せる。
一応これで殺傷能力はあることが確認できた。
しかし、ここで問題が発生する。
弓矢には問題があるものの、それほど支障はないのだが、肝心の射手である自分の弓の技量が全然ダメなのである。
確率は、10本に一発が、思い通り的に当たるほどで、なかなか命中しないのであった。
何時間か練習する内に、7本に一発は命中するようになる。
へへっ・・・、どんなもんだい・・・。
それぐらいになるときには、日が傾き始めていた、テラが僕を呼ぶ。
「アキラ! アキラ! ケムペーラ! 」
どうやら、戻ってこい! との合図のように聞こえ、僕は家に戻るのであった。そして、今晩もまた、テラ様によるアレが待ち構えているのであった。
∴ ∴ ∴ ∴ ∴
翌日、まだ日も明けていない早朝に、目が覚める。
身体が痛い。ベッドだけは譲らないテラを見ながら、起きる。
まぁ美少女を地べたで、寝かせるわけにもいかないよなと、納得しながら起きる。
朝食は、オニオンスープにおかゆを混ぜたような、健康的な朝食だ。なんか、あったかい家庭的な料理だ。
まるでテラがお袋に見えてくるようだった。
もちろん、介助は変わらなかった。
その後、食器を片づけ、いよいよ狩りだ!!
今日の獲物は兎です! あのキュートで、愛らしい動物を狩ることに抵抗を抱きつつも、肉を欲する本能には抗えないと実感しながら、準備をする。
昨日こさえた矢と弓を手に持つ、テラも
「アキラ、ブートィルグ」
と優しい声色を送ってくれる。僕もそれに答え
「ブートィルグ」
と答える。テラの表情に笑みがこぼれる。
∴ ∴ ∴ ∴ ∴
とりあえず、近くの湖に赴くことにした。
昨日、鴨先輩に、石をお見舞いした湖だ。この数日何度か、ウサギを見かけることがあり、彼らは湖の方向に、よく出没していたのを記憶していた。
兎はいねがぁ~と、辺りを探す。草が生い茂るあたりを見渡しながら探すがまぁ、見当たらない。
まだ始めたばかりだ、気楽に行こう。
草がそよ風を教えてくれる。元いた世界では、考えられない光景だ。見渡す限りの自然、嗚呼、アイスが恋しいと思う自分であった。
それからどれくらい経っただろうか、見たいと思った時ほど現れてくれないのだなと、物欲センサーの存在を疑ったその時、向こうの草陰でなにか違和感に気が付く。
(識別マーク、茶色!!うさぎです。)
ついに見つけたお目当ての肉、逸る気持ちを抑え慎重に近づく。身を屈め、慎重に慎重に近いづいていく。
兎の耳がピクッと反応する。こちらの音に気付いたのだろうか、だが逃げ出そうとはしない。こちら側がうまいこと草に隠れている。
少し近づいては、じっとするを繰り返すうちに、練習していた間合いに詰めることに成功する。
矢をそっと矢袋から取り出して、呼吸を整え弦を引く。
指を離すと矢は鳥の如く飛んでいく。
しかし、その線は獲物を捉える事なく頭上を虚しく飛ぶ。
はずれた! 兎もそのことに気付き、まさしく脱兎のごとく逃げていく。
(くそぉ!!肉ぅぅぅううう!!)
と血が頭に上る。そんなことをしていても、獲物を取れないことに気付き、冷静になる。
悔しさを覚えながらも、再度ウサギを探しはじめるのであった。
幸運なことに狩人の神様は、僕を見離してはおらず、再戦の機会はすぐに訪れたのであった。
∴ ∴ ∴ ∴ ∴
逃してから辺りを探し始めて十数分後、ふと山々を見る。
この景色は、見ていて気持ちのいいものだと感慨に浸りながら、目線を下に落とすと奴がいた。
そうウサギである。少し草が開けた場所につがいが、じゃれているのを見てとれた。
(今度こそ仕留める!!)
そう意気込み、身を屈め慎重に近づく。二匹のウサギはじゃれることに夢中で、こちらに気付いていない。
少しずつ、少しずつ間合いを詰めていく。
先ほどと同じくらい近づいた時、あることに気付く。ウサギが動き回り狙いが定まらない。
練習や先ほどは、止まっているものを狙っていたが、今回は訳が違う。動くものを射るのは、経験の浅い自分には無理なことだった。
しかし、獲物を目の前にして、気持ちが焦り矢を取り弦を引く。
(一かバチ、やってみるか。)
と無謀を挑もうとした時、ふと冷静さが戻りある考えが頭をよぎる。
(望みの薄いかけを挑むくらいなら・・・。)
呼吸を整え、その考えを実行に移す。
「ウワァ!!!!!」
大声を出す。すると、ウサギ達の動きが一瞬止まる。その瞬間を逃さずに狙いを定め、弦を離す。
(今度は、逃さない!!!)
と想いが通じたのか、矢が稲妻の如く駆ける。
矢は一匹のうさぎの腹部を捉えていた。そのウサギは最初は何が起こっているか分からずにいたが、次第に状況を理解し、のたうち回り始める。
続けて、もう一匹を射ようとするが、姿はなかった。
(二兎追うものは、一兎も得ずか。)
そんなことわざがふと思いつくのであった。
∴ ∴ ∴ ∴ ∴
さっそく、仕留めたうさぎに近付く、
(どうしたら、良いものか・・・。)
数日前まで、ただの少年だった者が異世界に来たら、ほいそれと万能能力を得るものではない。微かな記憶を頼りに、肉の鮮度を保つため血抜きを行おうとする。
ウサギを持ち上げる、まだ温かく逃げようと、筋肉が動く。ウサギの胴体を触り、心臓あたりの太い動脈を探す。
「ドクン! ドクン! ドクン! ドクン! 」
嫌な感触だ、これから止まるであろう感触を、この手に感じてしまったのだから。
精々、虫しか殺したことのなかった自分には、ハードルが高すぎた。思い知ったのだ、
今までの人生で感じなかった。数多の死の上に今の自分がいることを、今この瞬間を持って、深く心に突き刺さったのである。涙が頬を伝う。
生きるために仕方ない。生きるために仕方ない。そう自分に言い聞かせる。
「ウワァアアアアアアアアアア!!」
矢を生命線に突き立てる。
「プスッ・・・グチャ、ドボボボボボ!! 」
生温かい血が穴からあふれ出す。
無意識に首を下に向け、ただただその光景を僕は見ることしたできなかった。
そのあとは、狩りを続行することはできないと思ってしまい家路につくのであった。
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