Ⅲ.アキラ、少女を思う。

 陽の光で目が覚める。昨日まで、自分を固定していた縄が、解かれていること。そして自分が、昨晩はベットのようなもので、寝ていたことに気付く。




すると、解いてくれた主が、何か作業をしている途中で、振り向きこちらに近寄って来る。




薄々感じとっていたが、彼女は一体なんなのかという結論に至る。




やっぱ、あれですか。昨今、話題の異世界という奴ですかと、その結論に至る。まさか、自分が行ってしまうとは、正直驚きである。




そして、彼女は人間っぽいのだが、耳元は獣なのだ。世に言う、獣人の類かと推測する・・・。




「イッツ、ファンタジー! 」




そんな感想しか出なかった。僕の心境はそっちのけで、彼女は、また昨日のごとくスプーンに食べ物を乗せ、僕に食べさせようとする。




困惑するも、スプーンの主は、食べるのを今か今かと待ちわびている。




赤ちゃんの気持ちが、今ならわかる。強制的に食べさせられることは、けっこうきついものがある。




拒否したら、ガッカリしそうだし、食べるしかないじゃないか。




そう思い、食べると彼女は嬉しそうにまた掬う。それの繰り返しである。食べ終わると彼女は、何やら考え事をしているだろうか、僕の方をじっと見つめる。




まぁ、僕を食べようとはしてないっぽいし、悪い奴じゃないと考える。




そして、未知の言語と触れ合い前に、まずは自己紹介と考え、自分を指さし、




「アキラ。アッ↑ハン↓ 」




と言い、そして彼女に手を向けて、名前を尋ねるしぐさをする。彼女は、キョとんとしている。再度同じことをすると、彼女は意図を理解したのか。




「テ、テラ。」




と頬を赤くしながら、答えるのであった。僕は再度確認するように、自分を指さし、




「アキラ。」




そして、相手に手を向け




「テラ」




と言い、テラもそれが、正しいかのように首を縦に振るのであった。




すると、テラはひと段落ついたと悟ったのか、徐に立ち上がる。そして、食事の前にしていた作業に戻るのであった。




 そして、僕はベッドから立ち上がり、テラの後ろ姿をまじまじと見る。テラもその事に気付き、耳がピクッと反応する。




顔立ちは普通の人間だか、頭に犬耳がついている。それに腰あたりに、なにやら膨らみのようなものがあることに気付く。




やっぱり、どう見ても獣人だよな・・・本当に異世界に来ちまったんだなぁ・・。




と目の前の異様な光景に、自分が異世界転移したことを、つくづく実感するのであった。



∴ ∴ ∴ ∴ ∴


その後、テラがおもむろに立ちあがり、家のドアを開け外に出る様子が見られたので、自分もそれついていく。まるで、親についていく子供のような光景である。




すると、テラが振り返り顔を赤めながら、首を横に振る。それに理解するまで数秒を要した。




目の前の小屋は木製ちいさな小屋のような形をしており、その下を小さな小川が流れていた。




僕はそれが、すぐにトイレだということに気付き、その場を離れる。




ふと目の前に広がる、景色に固唾を飲む。




目の前に広がる森、そしてその後ろには、高くそびえる山々が見えた。この家の光に気付かなければ、自分はどうなっていたのだろうか。想像しただけでゾッとする。




(テラには、頭が上がらないなぁ・・・)




と実感し、何か自分にできることはないかと思い始めるのであった。




そう考えているうちに、テラが小屋から出てきて、サッと僕の前に回りこみ服をひっぱる。




家に行こうと行こうと急かす。そんな姿に悶えながら、それに従う僕であった。



∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 テラの家を改めて見回す。家は木造で質素な作りであり、縦横3メートルほどでジャンプをすれば、届きそうな天井である。




そこに煮炊きをする場所、作業するスペース、そしてベッドある。




他には、食糧などの保管スペースがあり、柱と柱にロープをたらして、そこに衣類や、食べ物を干している。




外には、教室1部屋ほどの畑があり、そこで野菜などを育てている。ふと、今までの食事で、あまり肉が出てこなかったことに気付く。




初日の肉らしき(多分、魚肉)以外に、お肉を食べていなかった。




獣人であるはずのテラが、なぜ肉をあまりとらない訳は、彼女を観察しているとわかった。




獣人と言っても、聴覚などが、強化されているように見えるが、身体能力は、あまり強化されていないように思える。




テラの農作業の様子を見ていても、遠くの方にいるウサギに気付くも、狩るわけでもなく、ただ茫然と見ているだけの姿が、何度も確認できた。




 一応、家に弓らしきものはあったので、テラに弓に関して質問してみた。




「テラ、んん?(弓を指さし、弦を引く動作をする)」




と聞いてみると、テラは首を横に振り、獲物当たらないという意図のジェスチャーを返してきた。あらまぁー。




どうやら、テラはそういったことは、あまり得意ではないらしい。それならばと、僕は弓を指さしやりたいという意思をテラに示した。




すると、テラはしばらく考えて、弓を手に取り、渡してくれた。つまり、いいよと言うことだ。




次にテラは、ジェスチャーで弦を引き、飛んでいく矢を表現する。その後、首を横に振った。少しその意図を考える。




矢のジェスチャーをオウム返しし、首を横に振る。テラは首を縦に振る。つまり、矢はないということらしい。




さすがに、もう夕方ぐらいで、今から矢を作るのは骨が折れるので、明日から頑張るとして、問題を先送りにした。






∴ ∴ ∴ ∴ ∴






 この日の食事も野菜しかなく、主食はポタージュのようなものだった。そして、なにより、テラの介助付きだった。




段々とこれが、当たり前のようになってるような気がしてならない。




別に嫌という訳ではないが、なぜだろうか、大事な何かが削られているような気がして、仕方がない。




ちょっとでも、テラなしでの介助を断ろうとすると、頬を膨らませ怒ったような態度を取る。




そして、受け入れるとまるで我が子を、愛でるような顔をするのであった。我が母、ここに見つけたり。




さすがに、このままでは、これが当たり前になるような気がした。




しかし、嫌と思いつつも、この家の主の機嫌を損なうことのできない。




まぁ、自分が我慢すればテラが笑顔になるし、それならそれでいいかと思うのであった。

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