第72話 プール
さて、いよいよ、期末テストだ。単語帳をめくりながらぶつぶつと、単語を確認していると、肩を叩かれた。
「うわあぁ!」
「あっ、ごめん。驚かせちゃった?」
そういって、いたずらっぽい顔をしたのは、亮くんだ。
「驚いたよ。でも、亮くんは最後の追い込みしなくていいの?」
「俺は、直前にやっても頭に入らないタイプだから」
つまり、前もって、勉強してるってことだよね。亮くんは偉いなぁ。私がそういうと、亮くんは笑った。
「朱里ちゃんも最近、自習室でずっと勉強してるじゃない」
テスト週間は、生徒会のお仕事はないので、ここ最近は亮くんの言う通り、自習室にこもりっきりだ。
「あはは、その成果がでるといいんだけどね」
私はお兄ちゃんとプールに行くために、七十点をとらなければいけないのだ。プールのために、ダイエットも頑張ったし、これでいけなかったら、泣いてしまう。
「じゃあ、お互い頑張ろうね」
「うん、頑張ろう」
そういって、亮くんが自分の席に戻る。それを見送って、私も勉強を再開した。
テストの出来はかなりいいんじゃないか、と思う。多分、七十点はある……はず。あると信じて、ダイエットに勤しむ。こうして、ダイエットしてみてわかったのは、ダイエットに近道なし、ということだ。最初は、楽して痩せようと思っていたけど、楽したら、痩せられない。結局地道に走ったり、腹筋したり、トレーニングを続けるしかないのだ。
そんなことをしていると、期末テストが返ってきた。なんと、ぎりぎり、七十点を取ることができた。ぎりぎりだけれど、七十点は、七十点だ。これで、お兄ちゃんとプールに行けるぞー。お兄ちゃんにテストを見せると、お兄ちゃんは笑った。
「じゃあ、約束通り、プールだね」
「うん!」
期末テストの結果がでたら、もう、夏休みだ。今年の夏は、補習にいかなくてもいいし、最高だ。
「朱里、脱がないの?」
「うん、もうちょっと待って……。今、勇気をためてるから」
ダイエットを頑張った私は、最終的に二㎏痩せることができた。だがしかし。二㎏やせたからといって、体型は変わらなかった。お兄ちゃんが期待するようなキラキラボディにはなれなかったのだ。せめて、お兄ちゃんのハードルを下げようと、期待しないでね! と再三言ったものの、なぜか、言う度に、お兄ちゃんのハードルは上がっている気がする。
羽織ったバスタオルを脱ぐには、まだ、勇気が足りない。でも、お兄ちゃんとプールで泳ぎたいし。うーん。でも。ええいままよ! 私は、バスタオルをとった。
「わぁ、朱里、その水着可愛いね」
「……ありがとう、お兄ちゃん」
お兄ちゃんは私の葛藤は一体何だったのか、というほどすんなりと誉めてくれた。私が選んだのはセパレートの花柄の水着だ。別れているけれども、布面積が大きいのでそう気にならない。
「じゃあ、行こうか」
お兄ちゃんが私の手をとり、プールに入る。ひんやりとした水が肌に心地いい。
「気持ちいいね」
「うん、涼しいね」
その後も、ウォータースライダーで滑ったり、流れるプールで泳いでみたり。お兄ちゃんの腹筋にどきどきしてみたり。プールサイドで売っているかき氷を食べたりして、プールを楽しんだ。
「楽しかった! 連れてきてくれてありがとう、お兄ちゃん」
「こちらこそ、楽しかったよ」
お兄ちゃんが柔らかく微笑む。
プールが終われば、次は家族旅行だ。今年は、お兄ちゃん受験勉強頑張って、ということで、遠出はしないけれど、楽しみだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます