第67話 中間テスト前

生徒総会が終わると、やつがやってくる。やつ──そう、中間テストだ。私の塾に通った成果をみせるとき、である。


 私はここ数日、スマホで授業を受けまくっていた。模試はもう少し先だし、お兄ちゃんと同じ大学を目指すなら少なくとも今の時点で、平均点はないと話にならない。なので、寝る間も惜しんで勉強した。


 お兄ちゃんと別れ、大きなあくびをしながら、ローファーからスリッパに履き替えていると、後ろから声をかけられた。

「朱里、おはよう」

「おはよう、彩月ちゃん」


 彩月ちゃんとは、文理選択が別れたので、当然クラスも別れてしまったけれど、お昼は一緒に食べるし、休み時間に隣のクラスにいって話したりしている。


 「朱里、すっごい大きなあくびだったね」

「みてた?」

「うん、ちょっと乙女としてはあるまじきレベルだったよ」

そう言われて、慌ててきょろきょろと、辺りを見回すけれど、お兄ちゃんは既に自分の教室に向かったようだ。良かった。ほっと、胸を撫で下ろす。


 「どう? 中間テストの方は。勉強は進んでる? もしよかったら、今日は一緒に勉強しようよ。英語とかなら、一緒にできるでしょ?」

「うん!」

彩月ちゃんは英語が得意だ。英検も何級だったか、忘れたけれど、持っていたはず。


 彩月ちゃんと雑談をしながら、教室にいく。

「それじゃあ、また、お昼休みね」

「うん、またね」





 お昼休み。食堂で彩月ちゃんと一緒にお昼ご飯を食べていると、ふいに、彩月ちゃんは切り出した。

「それで、モテモテな朱里は、小鳥遊先輩と鈴木くんどっちを選ぶの?」

「げほっ! も、モテモテじゃないよ。っていうか、一体どこから鈴木くんの情報を……」


 鈴木くんのことは、まだ、彩月ちゃんに話していなかったはずだ。

「どこからもなにも。学校中が、その話題で持ちきりよ」

えっ、そうなの。

「この学校は生徒数もそう多い方じゃないし、朱里と小鳥遊先輩が付き合ってるのは周知の事実だし、朱里たちに手を出そうとしてるのは、中原さんくらいなものだったでしょ? それなのに、二人の間に割って入ろうとした、勇者がいるって」

「ゆ、勇者……」

「ちなみに、小鳥遊先輩のファンは、鈴木くんを応援してる」

な、なるほど。確かに、いくら義兄妹といえども、あれだけ毎日手を繋いで登下校をしてたら、付き合ってるのはばれるよね。お兄ちゃんのファンの人たちは私に別れてほしいと思うのは当然だ。別れる気はないけど。


 「選ぶもなにもないよ。私は、お兄ちゃんが好きだもん」

私がそういうと、彩月ちゃんはまあ、そうだよね、と言いながら、ウインナーを頬張った。


 「流石に小鳥遊先輩も二度も朱里をかっさらわれるなんてこと、したくないだろうし、勇者は大魔王の前に破れさって、めでたし、めでたし、ね」

勇者が魔王に負けるのは、果たしてめでたし、なんだろうか? 若干首をかしげつつも、彩月ちゃんと他愛ない話をして過ごした。


 放課後。勉強しながら、さりげなく、彩月ちゃんの情報を聞き出す。

「彩月ちゃん」

「んー?」

「私は最近マスキングテープにはまってるんだけど、彩月ちゃんは何かはまってるものとか、ある?」

あんまりさりげなく聞けなかった! 五月! それは、中間テストの時期であると同時に彩月ちゃんのお誕生日月なのだ。ちなみに、去年はくまのぬいぐるみをプレゼントした。


 「そうだなぁ、ボールペンにはまってるかも」

「ボールペン?」

思わず、勉強の手を止めると、彩月ちゃんはボールペンを見せた。彩月ちゃんのボールペンは色んな種類があった。

「どれがかきごこちがいいか、とかこだわってる」

なるほど。ボールペンか。それなら、名前入りボールペンをプレゼントするのは、どうだろう。私が渡す場面を妄想しながら、にやにやしていると、彩月ちゃんに変なものを見るような目で見られた。


 「あっ、それから彩月ちゃん。ここの文構造を教えてほしいんだけど」

「まず、これは、Sが──」

ふむふむ。彩月ちゃんの解説は丁寧で、わかりやすく、勉強はとてもはかどった。

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