第64話 新入生
薄桃に桜が色づいている。さて、私が高校に入学してから早いもので、二度目の春がやって来た。去年は、前世の記憶とやらを思い出して、色々と空回りしたりして、大変だったけれど、今年度は将来の夢に向かって、頑張りたいな。
そう思いながら、入学式の受付をする。入学式の受け付け係は、私と愛梨ちゃんだ。ちなみに、私は一年一組担当だ。新入生は皆初々しい。去年の私たちもそうだったのかな、なんて、微笑ましく思う。
「ご入学おめでとうございます。お名前をお願いします」
言われた名前にチェックをつけていく。──と。
「あの、お名前は?」
考え事でもしているのかとある男子生徒は、ぼんやりとしている。かと、思うと、男子生徒は急に、意識を取り戻した。
「鈴木圭一です、あの、」
「? どうしました?」
どこか具合でも悪いのだろうか。そう思って、首をかしげると、鈴木くんは尋ねた。
「先輩の、お名前は?」
「私は、二年二組の小鳥遊朱里と言います。よろしくお願いしますね」
生徒会の腕章をみせて、怪しい者じゃないよアピールをする。すると、鈴木くんは、慌てた。
「あっ、いえ、先輩が怪しいとか、そういうわけじゃ……」
「ふふ、わかってますよ。これからの学校生活、楽しんでくださいね」
「は、はい!」
鈴木くんを見送って、次の子の受付をする。そういえば、この中から何人か生徒会補佐になる子がいるんだよね。どんな子がなるんだろう。
入学式を終え、帰り道をお兄ちゃんと歩く。
「そういえば、生徒会補佐にすでに立候補してくれた子がいるみたいだよ」
そうなんだ。どんな子だろう。生徒会補佐は、頭のいい子が優先的に声をかけられるから、私と違って成績優秀に違いない。ちゃんといい先輩に私、なれるかな。
「そういえば、朱里、二組ってことは、理系にしたんだね」
そうだった。お兄ちゃんには、まだ、私の将来の夢、話してなかったんだよね。
「あのね、私、栄養学に興味があるんだ」
この夢を見つけられたのもお兄ちゃんのお陰だ。お兄ちゃんの好みのタイプに近づきたくて、料理を練習しているうちに、料理が大好きだって気づいた。それで、将来食に関わる仕事がしたいって思えたんだ。
お兄ちゃんにそういうと、お兄ちゃんは意外なことをいった。
「それなら、僕と同じ大学目指す? 確か栄養学を学べる学部もあったはずだし」
「え? ええ! 無理だよ」
お兄ちゃんは進学校としてそれなりに名をはせているこの学校の学年一位の頭脳を持つ。そんなお兄ちゃんと同じ学校を目指すなんて。
「無理じゃないよ。朱里は自分の力を過小評価しすぎだよ」
そうだろうか。でも、最終的には、お兄ちゃんと違う大学をいくにしても、高い目標をもった方が勉強のモチベーションにも繋がるよね。
「私、お兄ちゃんと同じ大学にいけるように頑張るよ」
家に帰って、まずは、お父さんとお義母さんに相談する。私も、お兄ちゃんと同じ大学を目指すこと。でも、今の私の学力では厳しいこと。だから、塾に通わせて欲しいこと。
「でも、塾っていっても放課後は、生徒会のお仕事で朱里ちゃんは忙しいんじゃない?」
お義母さんのいうことは最もだ。彩月ちゃんのような授業がリアルタイムで行われる塾は厳しいと思う。なので、私は、授業をスマホやパソコンでいつでも受けることができる塾に通いたいのだと相談した。
「……なるほど。わかった。朱里が勉強にやる気を持ったことはいいことだ。塾に通うことを許可しよう」
お父さんが頷いてくれた。やったー。これで、夢に一歩近づいたぞ。
「よかったね、朱里」
「うん、ありがとう。お兄ちゃん」
塾に通いはじめて、数日。通うと行っても、もっぱら家で授業を受けることが多いのだけれども、有名講師の授業は流石とてもわかりやすく、前よりも勉強するのが楽しくなった。
そんなある日のこと。ついに、一年生の生徒会補佐になる子がくることになった。まだ部活を悩んでいる子も多く、とりあえず入るのは一人だけらしいけれど、楽しみだ。
みんなでそわそわしながら、新入生の到着を待つ。
「失礼します」
生徒会室に入ってきたのは、男子生徒だった。どこかで、見覚えがある気がする。誰だっけ。
ひとまず、簡単な自己紹介──名前とクラス、それから好きなものを言うことになった。まずは、新入生からだ。
「一年一組の鈴木圭一です。好きなもの──、というか、好きな人は、小鳥遊先輩です。小鳥遊先輩に一目惚れをして、生徒会に入りました」
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