第42話 朝ごはん

「おはよう、お父さん」

「おっ、朱里。こんな早くに起きているなんて、珍しいな」

お父さんが意外そうな顔をした。お父さんは私たちよりもずっと早く出るから、今まで朝はなかなか会うことがなかったんだよね。


 「お義母さんにお願いして、今日から朝ごはんは、私が作ろうと思って」

ちなみに、お義母さんからの許可は貰っている。朝食は、後は卵焼きを焼いたら完成だ。


 「急にどうした? 最近流行りの女子力とかいうやつに目覚めたのか?」

「そうかも」

卵焼きをくるっと丸めて、朝食は出来上がり。本当は、お兄ちゃんの好きな女性のタイプが、料理上手な子だから、腕を磨くためだ。料理はそれなりに出来るけれど、忙しくて最近は、休みの日くらいしかしていなかった。本当は夜ご飯の方が凝ったものが作れるから、腕を磨きやすいんだろうけど、放課後は生徒会の仕事などがあるから、朝ごはんにした。


 「お父さん、できたよ」

お義母さんは洗濯をしているので、とりあえずお父さんの分だけご飯とお味噌汁をよそう。


 それから今日は焼いた塩鮭と、卵焼きだ。明日からは、野菜も使って何かを作りたいな。


 そう思いながら、お父さんの前に、朝ごはんを並べると、お父さんは感激した。

「朱里の朝食、久しぶりだなぁ。昔は、包丁一つ使うのに覚束なかったのにな」

私が初めて包丁を握ったのは、お母さんが亡くなってから、暫くしてのことだ。もう、あれから大分時間が経っている。


 「昔よりは、上手にできた……、と思うけど、どうかな?」

どきどきしながら、お父さんの反応を伺う。お父さんは、いただきます、と味噌汁を口に含んだ。

「美味いよ、朱里」

「ほんと? やった!」

お父さんは、本当に美味しそうに食べてくれたので、ちょっとだけ自信がついた。


 朝食を食べ終わり、出勤ついでにごみ捨てに行ってくれるお父さんを見送って、リビングに戻ると、お兄ちゃんが二階から降りてきた。


 「おはよう、お兄ちゃん。もう、朝ごはんできてるよ」

「おはよう、朱里。もしかして、今日は朱里が作ったの?」

「うん」

ちょっとだけ恥ずかしく思いながら、頷く。私もお腹が空いてきたので、お兄ちゃんのぶんと、私のぶん、そして、お義母さん……は、まだ、お風呂掃除で時間がかかりそうだからつがないほうがいいか、と、とりあえず二人ぶんのご飯とお味噌汁をよそった。


 「いただきます」

お兄ちゃんはまず最初に、卵焼きを食べた。

「どうかな?」

お父さんは美味しいっていってくれたけれど、お兄ちゃんの舌の好みではないこともある。どきどきしていると、お兄ちゃんは、ふわりと笑った。


 「だし巻き卵だね。美味しいよ」

「よかった」

ひとまず、卵焼きは成功だったみたいだ。続けて、鮭、お味噌汁、とどれもお兄ちゃんは美味しいと言ってくれた。お世辞かもしれないけれど、嬉しいな。


 私も朝ごはんを食べる。美味しいかは、人の好みだろうけれど、少なくともまずくはない、かな。何はともあれ、継続していくことが大事だよね。明日の朝ご飯も頑張ろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る