第34話 衝撃
体育祭の後、フォークダンスを踊った彩月ちゃんと小塚くんは付き合い出した。
「彩月ちゃん、おめでとう」
「……ありがとう」
彩月ちゃんは照れ臭そうに、笑った。喜ばしいと思う反面、こうして放課後喫茶店に一緒にいく回数も減っちゃうのかな、と思うとちょっと寂しい。でも、彼氏ができたんだから、仕方ないよね。
「? 別に、放課後小塚と一緒に帰ったりしないから、今まで通りだよ」
「えぇ!」
そうなの!? いや、私は嬉しいけど、小塚くんは大丈夫なんだろうか。
「そもそも、家の方向が違うしね」
「えっ、でも、放課後デートとか……」
「しない、しない」
そうなんだ。まあでも、カップルごとに色んなつきあい方があるよね。
「そんなことより、朱里のことよ」
「私?」
「田中とは、順調?」
それなら、順調だ。私は彩月ちゃんに、週末に期末テスト対策をかねて図書館に行くことを話した。
「じゃあ、田中のこと、好きになれそう?」
「それは……、好きになりたいと思ってる」
恋心というものは複雑で、そう簡単に好きな人を変えられない。でも、ううん、だからこそ、亮くんを好きになりたいと思っている。
「そっか。ちなみに、小鳥遊先輩と中原さん別れたらしいよ」
「えっ!?」
「小鳥遊先輩から聞いたから、確かな情報だよ」
お兄ちゃんに!? お兄ちゃん全然そんなそぶりしないから、知らなかった。
確か付き合い出したのが、五月の半ばくらいだから、一ヶ月くらい、だろうか。と、驚いてみたものの、漫画でも、お兄ちゃんと愛梨ちゃんは一度別れる。お兄ちゃんが理由も言わずに、別れを告げるんだよね。でも、愛梨ちゃんが頑張って、もう一度お兄ちゃんと付き合うことになり、ハッピーエンドというわけだ。
だから、結局、お兄ちゃんがヒロインである愛梨ちゃんのモノになるってことは、変わらないんだよね。
「朱里?」
「ううん、何でもない」
思わず俯いた私を心配そうに、彩月ちゃんが覗き込む。慌てて、顔をあげて首を振る。
「そう?」
「うん」
その後は、ケーキを食べて、他愛ない話をして過ごした。
さて、週末。今回も駅で集合なので、過保護なお兄ちゃんにばれないように、家をでる。駅につくと、やっぱり亮くんはもう待っていた。
「朱里ちゃん」
「亮くん、ごめんね待った?」
「ううん、まだ集合時間よりも早いよ」
時計を確認すると亮くんの言う通り、十分前だった。あれ、でも、なんでだろう。亮くんは十五分前行動の人なのかな。
私の疑問が顔に出ていたのか、亮くんは顔を赤くした。
「朱里ちゃんに、早く会いたくて」
「!」
り、亮くんはときどき、こういうことをさらっというから本当にずるいと思う。私もつられて顔が真っ赤になるのを感じる。
お互いに照れた空気を誤魔化すように、咳払いをすると、電車に乗り込んだ。
図書館では、亮くんと一緒にいることに前よりも慣れたからか、そんなに緊張せずに、勉強に集中することができた。
お昼の時間になったので、近くのファミレスで、お昼ご飯を食べる。
「そういえば、亮くん、体育祭のときのリレーすごくかっこよかったよ」
惜しくもお兄ちゃんに負けて二位だったけど、かなりの接戦で見ていてとても面白かった。
「でも、負けちゃったからなぁ。会長が、もし、リレーに俺が勝ったら朱里ちゃんとのこと、認めてくれるって言ったんだ」
「そうだったの!?」
そういえば、お兄ちゃんと亮くんはリレーの前に何か話していたんだった。あれって、このことだったんだ。だから、お兄ちゃん、絶対に負けたくなかったのかな。ふふ、本当に過保護なんだから。
「……朱里ちゃん」
「? どうしたの?」
「ううん、何でもないよ」
何でもないというわりには、亮くんの声は少し、変だ。でも、そういうときは、あまり追求してほしくないと知っているから、結局理由を聞けないままだった。
お昼ご飯を食べ終わり、図書館に戻って勉強を再開する。
亮くんのおかげでとても知識がついた気がする。これなら、赤点回避は余裕で、もしかしたら、平均点以上とれちゃうかも。なんて、調子に乗りつつ、家に帰った。
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