第31話 風邪
さて。今日からいよいよ、中間テストが始まる。中間テストは今日と明日の二日間に分けて行われる。よし、頑張るぞ。
「朱里、大丈夫? 顔真っ赤だよ。熱でもあるんじゃない?」
なんとかテストを乗りきり、ぐったりと机に伏していると、彩月ちゃんが心配そうに声をかけてくれた。
「あはは、テスト頑張りすぎたからかな」
昨日、雨に降られたのと、テストの為に徹夜をしている。テストで徹夜してもそう頭の中に入らないってわかってるのに、どうしてもしちゃうんだよね。もしかしたら、そのせいで体がだるいのかもしれない。
「とりあえず、保健室いってきなよ」
「うん、そうする」
明日もテストがあるし、今日は早めに帰った方がいいかもしれない。ふらふらする体で何とか、保健室に行き、熱を測る。
熱は、38℃だった。うーん、風邪だ。完璧にやらかしたな。とりあえず、家に帰る。保健室の先生には、保護者に迎えに来てもらった方がいい、といわれたけれど、お義母さんには迷惑をかけたくない。
「ただいまー」
家に帰ると、玄関に鍵がかかっていた。車もないし、お義母さん出掛けてるんだろうな。やっぱり、連絡しなくてよかった。そう思いながら、鍵を開け、家の中に入る。
「えーっと、薬は……」
確か、市販薬がこの辺りにと、台所をごそごそと探す。
「あ、あった!」
薬を見つけたので、とりあえず、水で流し込み、ふらふらしながら二階に上がる。
と、
「あれ」
もう自室は目の前だと言うのに、急に力が抜けた。その場にへたりこんでしまう。これは、熱が上がってきちゃったかな、と、どこか遠くで思いながら、私は意識を失った。
「……り、朱里!?」
誰かが身体を揺さぶっている。おでこにあてられた手がひんやりとしていて、気持ちいい。
「ひどい熱だ。すぐに運ばないと」
「……ゆう、くん?」
何とか瞼をうすく開けると、優くんが心配そうな顔をしていた。
「朱里、立てる?」
「ううん」
身体に力が入らない。そういうと、優くんは私を抱き上げた。
そして、そのまま私の部屋に入り、私をベッドに横たえる。
「とりあえず、氷枕と──」
「……いかないで、ゆうくん」
優くんの制服のシャツを掴む。優くん、いかないで、私をおいていかないで。
「わかったよ。朱里の傍にいる」
そう苦笑して、私の頭を優しく撫でる。すると、何だか眠くなってきた。私がゆっくりと瞬きをすると、優くんは優しく、おやすみ、と言ってくれた。なんだか、いい夢が見られそうだ。そう思いながら、目を閉じた。
「うーん、よく寝た」
欠伸をしながら、身体を起こすと、身体が重いことに気づく。ん? と思って、布団に目を落とすと、お兄ちゃんが、伏せていた。
えっ!? なんでお兄ちゃんが私の部屋に!? 二階に上がってから全く記憶がない。看病してくれたのだろうか。
そういえば、左手が暖かい。そう思って、左手に視線をやると、
「!?!?」
お兄ちゃんと手を繋いでいた。えっ! うそっ!? お兄ちゃんが自分から手を繋ぐとは思えないから、私がせがんだんだろうか。そんな、熱で心細いなんて、今時高校生になって、そんな。
あまりの恥ずかしさに、熱は下がったはずなのに、顔が真っ赤になるのを感じる。
せめてもの証拠隠滅を図ろうとして、握った手を離そうとするも、お兄ちゃんにがっちり握られていて、抜け出せない。お兄ちゃん、案外力強いよね。
そうこうしている間に、お兄ちゃんも目を覚ました。
「あかり……? 顔が真っ赤だよ。まだ、熱があるんじゃ──」
「だっ、だだだ大丈夫! 大丈夫だから!」
「そう?」
「お、お兄ちゃん、そういえば、私桃缶が食べたいなぁ、なんて」
「わかった、とってくるよ」
「ありがとう! お兄ちゃん」
さりげなく離された手にほっとするような、残念なような。ち、違う。全然、残念じゃないから!
誰かに聞かれてるわけでもないのに、言い訳をしながら、目を閉じた。
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