第145話 山梨:確かめる術/橋上の



(知らないお店だ)


 道の駅富士川を出て北進を始めてすぐ、左手にホームセンターがあった。駐車場がたっぷりあり、おまけに飲食店やスーパーも併設しているタイプの、ともすればショッピングモールとも呼べそうなほど巨大なホームセンターだった。


(浜松では見たことないな)


 遠い土地の見慣れないお店。それもホームセンターという大型小売店舗。ああいった大きいお店は全国チェーンの領分で、全国どこでも同じお店ばかりと思っていたのだが、どうやらそうでもないらしい。地元の皆様に愛されているローカル(?)ホームセンターなのだろうか。


 東京のホテルで未天みそらが言っていたことを思い出す。夕方のホテルで見るローカル情報番組で、遠くに来たことを実感しているという。あの時は共感できなかったが、今抱いている心情がそれに似ていたりするかもしれない――それを確かめる術はきっと無いけれど。


(カー◯とかカイ◯ズじゃないんだ)


 いずれにせよ、山梨でホームセンターを探したい時に何と検索すれば良いのかは分かった。それだけでもずいぶん心強い。サイドミラーが緩んで、慌てて工具を買いにホームセンターへ駆け込んだ記憶は新しかった。


(こっちか……?)


 地図で面白そうなところがあったので行ってみる。しばらく北進→右折すると、中部横断道の高架下をくぐった。ゆるやかなカーブを描きながら傾斜した道で、よく見ると川を渡る橋であることがわかる。


(52号線とはお別れか)


 高架の向こう側に見えなくなった52号線へにわかに視線を向けた。なんだか寂しい気もするが、必ずまた通ることになるだろうなという確信があった。次あの道にお世話になる時はどこへ向かい、何を考えているのだろう。そう思うと、期待というあまり抱いたことのない感情が胸でころりと転がったのが分かった。






「おお……」


 地図で見つけた面白そうな場所。それは橋のど真ん中にあった。


(マジで橋の途中にある…………T字路が)


 釜無川と笛吹川。2本の大河にまたがる大橋の途中にそこはあった。橋の横っ腹に道がぶっささってT字路になっている。つまりできた。


(これ曲がる人いるのか……? いるんだろうな。ていうか今から曲がってみよう……)


 地図上で分かっていたから驚かないが、知らなかったらもっと驚かされるに違いない。さらに言えば予備知識がなかったら危険までありうる。


 橋の上にT字路があるということは、そこで曲がる自動車がいるかもしれないということであり、曲がるということは徐行レベルまで減速するということだ。


 一方で橋とは大抵直線ないし緩やかな曲線を描き、曲がり角など存在しないというのが自分の中での常識であり、渋滞以外で前方車両が徐行レベルまで減速するということは基本に想定にない。目の前のこれはその想定外を現実にする代物であり、珍しいでは済まされない教訓をもたらすものだった。


(初めての道は何があるか分かったもんじゃないな……車間距離、たいせつ)


 無論、道を責めるわけにもいかないので、こちらで対策するしかない。車間距離と速度に注意するという基本原則を守っていれば、周囲の車の予想外の減速といった挙動にも対応できる。それを身にみさせる場所だった。


(あー、でも厳密にいうと橋は途切れてるんだな)


 背後から衝突されないかビクビクしながら、橋のど真ん中で左折した。土手の上に道路が通っていて、土手は釜無川と笛吹川を隔てているものだ。両サイドは河原になっていて、ともすれば巨大な川のど真ん中をバイクで走っているかのように感じられる。青い空の下、真っ直ぐに伸びた道が清々しくないわけがない。


(……良すぎる。また来よう)


 というわけで、少なくとももう1台は、橋のど真ん中で曲がろうとするバイクが現れることになりそうだ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る