第138話 わしゃわしゃ


「「期間限定?」」

 フィリーと店長がそろって首をかしげる。

「土日にバイク駐車場を出現させましょう。とりあえず11月中だけ。このお店のメインのお客さんは女性で、それも平日昼間のランチとか、友達同士でお茶しにくるマダムとか、学校帰りの女子高生とかじゃないですか。でもそういう人たちって逆に土日は来ませんよね? 男性が多いライダーやサイクリストと住み分けができるはずです」

 あと、こちらに来てからの私のシフトは平日夕方から夜が中心なので、フィリーのファンたちと顔を合わせる機会は少なくできるはずだ。

「住み分け。住み分けかぁ。ありと言えばあり……かなぁ。店としてはいま来てくれてるお客様には引き続き来てほしいし。プラマイゼロじゃ困るわ」

「私としては土日にバイク駐車場があってくれればいいわ。どうせバイクに乗るのは土日なんだし。ライダーのほとんどはホリデーライダーだし、平日もバイク駐車場を用意しておく意義は薄いかもね」

 と、ここでフィリーがポン! と手を打った。

「そうだ店長さん! イスとテーブルって余ってませんか? イスだけでもいいんですけど!」

「椅子? ウェイティング用の椅子なら余ってるけどね。椅子を用意したのはいいけど、ウェイティングの椅子が足りなくなるほどお客様が来たのって開店してすぐくらいだったっていうだけだけど」

「それ、外に置いておきませんか?」

「テラス席的な?」

「テラス席的な! バイク駐車場の近くに並べておきましょう! あとテイクアウトのコーヒーってありますよね? 自分のバイク眺めながらコーヒー飲むのって最高なんですよ! あと、防犯の意味でバイクから離れたがらないライダーも多いです! メグの言ってた住み分けもできます。お店の内と外で!」

「でも寒くない?」

「11月ならちょっと寒いくらいで済みますよ。あと、ライダーはそこらの人よりしっかり防寒してますから、11月中くらいだったら走ってなければ適温です。そういう意味でも、期間限定っていうメグの案は上手いかもしれないわ! 11月——秋だけじゃなくて春にやっても良いんじゃないかしら?」

 春と秋。つまりツーリングのハイシーズンだ。たしかにその時期は外を走り回る人も多いかもしれない。私はバイクに乗り始めて初めての秋で、春に至ってはまだ体験していないが。

「期間限定……確かに良いかも。バイク駐車場のコーンとかも撤収が簡単だし保管にもそれほど場所も取らない。期間限定って言葉に弱い人もいるし、期間限定ならバイクとかが苦手な既存客も販促なんだなって理解してくれるだろうし。そもそも住み分けしてるし……」

 店長がぶつぶつとつぶやいている。いろいろと懸念もあったらしい。例えば強風——遠州の空っ風で三角コーンが吹き飛ばされる可能性とかも危惧していたようだ。しかし空っ風が猛威を振るうのは冬になってからなので、11月はまだ落ち着いておりこれもクリアしている。コーンを外に置いておくのは土日だけになるので、さらに危険は低減する。

「二輪セットは店内限定にすればいいか……よし! 期間限定&テラス席で行きましょう!」

 なんとか軌道修正ができたらしい。期待以上に無難なところに落ち着いた気がする。

「わかりました」

「イエーイ決まりー! ねぇねぇメグメグ! 私のアイデア良かったでしょ? ほめてほめてー♪」

 などとほざきながら彼女は、ちょっと体をかがめて頭をこちらに突き出してくる。まさか撫でろということだろうか。なんで私がそんなことを?

「……」

 まあ、フィリーのアイデアも良かった。澄み渡る秋の空の下、愛車を眺めながら飲むコーヒーなんて美味しいに決まっている。

「まったく……」

「わーい♪」

 撫でた。わしゃわしゃ撫でた。



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※実際のテラス席は保健所の許可とかが必要らしいので気軽に導入はできないようです。

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