第132話 混ぜるな危険?:何か言え



「いただきまーす!」



 追加で運ばれてきた2枚のピザに、フィリーは瞳を輝かせながらナイフを入れた。


「ピザって2枚くらい食べたくならない? ほら、並べると横から見たバイクのタイヤみたいだし。それにデリバリーだと2枚目半額だったりするしもう公式でしょ?」


「ピザ屋さんのバイクってだいたい三輪のやつだけどね」


「あ! あれ便利そうなのよねぇ! 1台手に入れて遠州豊田のモールとか行きたい!」


 そんなことを話している間にも、ピザは瞬く間に円形ではなくなっていく。タイヤどころではない。ホイール削れまくってた。私と未天はそれを唖然と眺めていることしかできなかった。


「ほ、ほんと気持ちよく食べるね……」


「見てるだけでお腹いっぱい」


「いまならピザパーティーやっても完食できる気がする」


「気のせいだと思うよ……」


 未天が本当にピザを頼もうとしていたので必死にめた。たぶん顔面レシーブの二の舞になる。


「うらやましいなぁー。近くにバイクに乗る人がいて」


 ピザを完食し、追加で注文したコーラをストローですすっていたフィリーが独りごちる。


「フィリーも学校の友達をバイク沼に引き込めば?」


「よく言うわ。自分でミソラを引き込んだワケでもないクセに」


 ばれたか。


「私だってそれ狙ったわよ。でも私がアップしてる動画見せたら『あっ……わ、わたしは遠慮しとこうかなぁ……あははは』とかいって逃げられちゃった」


「そりゃそうだろ」


 勧誘の方法が明らかに間違っていた。


「メグとミソラはもう一緒にツーリングしたりしたの?」


「「……」」


「えっ、嘘でしょ?」


「み、未天のSRは慣らし運転中でペースが合わないだけだから。慣らし運転が終わったら一緒に出掛けるつもりだったから……!」


「あっ、メグちゃん! 私の納車の時にメグちゃんのバイト先までは走ったよ!」


 フィリーが頭痛を堪えるようにこめかみに指先を当てていた。苦々しい表情を浮かべる様子はこれはこれで珍しかった。


「あ。さては2人とも、3人集まると別の2人がしゃべってて自分は話しに入れずひたすら無言になるタイプね?」


「うわー! やめてぇー!」


「はい2人組作ってー」


「ぐわー!!」


 未天の反応が期待通りのものだったのだろう。フィリーはお腹を押さえて愉快そうに笑い声を上げた。



「やっぱりー! どう? メグもでしょ?」


「2人も友達がいたことがない」


「「……」」



 何か言え。


「ミソラ、あなたのSR新車なの?」


「あ、うん」


「えー、言ってよー。納車動画撮りたかったぁ」


 露骨に話題を反らしてきたぞ。


「いまからでも遅くないわ。納車動画撮影しましょう。良い記念になる!」


 お前が再生数稼ぎたいだけだろ。


「メグのエストレヤもあるから比較動画なんかも良いかもしれないわ。そうと決まれば行きましょう!」


 何も決まっていないが、フィリーは伝票を取って席を立った。「次はそっちで払ってね」とのことだ。私たちと比べ物にならないほど稼いでいるだろうし、払ってくれるなら良いか、と思い支払いを任せて店を出た。


 そしてSRに歩み寄る未天の背中を何となく眺めていたら、背後からズシリと重みがのしかかる。フィリーが肩に手を回しているようだった。そんな彼女が、私の耳元で囁いた。


「約束は守ってもらうからね……♪」


 私が何か返す前に、フィリーは未天のところへ駆け寄っていった。






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