第128話 混ぜるな危険?:襲来
数日後の休日、バイト中にそれは起こった。
その時まではいたって平和で、まさかこんなことが起こるなんてこれっぽっちも思っていなかったのだ。
「来ちゃった♪」
「……」
呼んでない。そもそも教えてない。コーヒーチェーンでバイトしていることは伝えていたが、どこの店とは知らせていない。
「フィ、フィリー? 何でここに……?」
「あーっ、めちゃくちゃびっくりした顔してるー! メグもそんな顔するのね。写真撮っちゃお♪」(パシャパシャパシャパシャ)
「撮るな。何でいるかって聞いてるんだけど」
「どうしてメグはパンツスタイルの制服着てるの? それ男性向けでしょ? でもカッコイイー! 超似合う! これはメグ目当ての女性客もいるわね。ねえ当たりでしょー?」
「帰れ」
「ちょーっ!?」
フィリーの背中を押して出口に追いやる。すると彼女はドアの枠にしがみついて抵抗した。往生際が悪い。
「分かった! 大人しくする! 大人しくするから追い出さないで! 待って! ヤダヤダせっかくメグと会えたのに!」
「……本当に大人しくできる?」
「できるできる」
「……はぁ……1名様ですね。こちらにどうぞ」
店内は比較的空いていた。席は選び放題だった。なのであまり目立たない隅のテーブルへ案内する。
「でへへっ。おねーさんカワイイですね。バイト終わるの何時ですかぁ~?」
「ご注文はお決まりですか」
「店員さんのおすすめで!」
「かしこまりました」
一番高くなるセットにしてやった。
バックヤードに戻ったら店長が待ち構えていた。
「本当に別のカノジョ連れてきてくれたんだ!」
「違います」
「え、じゃああの子なんなの」
「何なんでしょうね……」
個人的には懐かれてしまった野良大型ワンコといったところだ。
「うっひゃー、すっごいスタイル良い。顔もすごく整ってる。美人は美人を呼ぶっていうけど本当なのね」
そんなことは聞いたことがない。
「日本語しゃべれるの?」
「ペラペラですよ」
「モデルさん? もしかして女優さんとか?」
「言動は芝居くさいですね。そんなに興味あるなら提供(※お客さんのテーブルに商品を持っていくこと)店長が行きますか」
「ううん。ここで見てた方が面白そうだから君影さんに任せるね」
フィリーの世話を店長に押し付ける作戦は失敗に終わった。それと同時に商品が出てきたのでフィリーのテーブルに持っていく。私の気配を察したのか、彼女はスマホから顔を上げてニコリと微笑んだ。
「お待たせしました」
「これがメグのおすすめなのね!」
「はい。一番気に入ってるのは値段です」
フィリーに注文させたのはコーヒー、サンドイッチ、サラダ、デザートのセットだ。それぞれ好きな商品を組み合わせることができ、例えばブレンドコーヒーはウインナーコーヒーなどに変更できる。
それを利用して全て一番高い商品に変更したあと、追加料金でサイズを最大までアップした。私は食べきれないが、彼女なら大丈夫だろう。現に「わ♪ すごいボリューム!」なんて言ってるし。
「いただきまーす!」
「それ食べたら早く帰ってください」
「えー」
「どうしてここが分かったの」
「たまたま通りかかって、駐車場にメグのエストレヤがあったのが見えたから寄ってみたんだけど、まさか店員さんだとは思わなかったわ」
「ぐぅっ」
さもありなん、という感想しか出てこなかった。
かくいう私も、どこかへ行った時は必ずフィリーのドラッグスターが駐車場に止まっていないか確認している。生活圏が重なっててエンカウントするのは仕方がないとして、いきなり遭遇するとびっくりするからだ。彼女と出会ってから習慣にしているが、相手も同じようなことをしているかも、というところまでは頭が回らなかった。
「……時間の問題だったと思うことにする」
「今日から通わせてもらうわね」
「勘弁してください」
フィリーが通ってくるのはもう防ぎようがない。しかしまだ守るべき砦が残っている。すなわち、
お互い常連となりそうなので、これも時間の問題かもしれない。しかし、黙って見ているだけなんてことはできなかった。
(未天は、私が守る……)
などという、悲壮な(?)決意を私がしたその時、来客を知らせるチャイムが店内に鳴り響く。なので反射的に出入口の方を向いてお決まりの言葉を口にする。
「いらっしゃいま――」
言葉が途切れた。あとが続かなかった。理由はひとつしかない。
未天がいた。
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