第25話 フィリー:輝きを浮かべて



「ともだち……」


「そう、トモダチ! あなたがその気なら恋人でもオッケー!」


 恋人って……。


 さては外国人なので恋人の意味が分かっていないな?


仰々ぎょうぎょうしいのは好きじゃない」


「まぁまぁ。ぶっちゃけ私のこと苦手だって見てれば分かるけど――」


「っ」


「せっかくのJKライダーをみすみす逃す私でもないのよねー。JKライダー2人でキャンプツーリングしてみた! とかいう企画とかやりたいじゃない?」


 したくないけど……?


「……」


 しかし、彼女のスタンスは嫌いじゃなかった。


 友達なんて言葉は、言葉だけだ。人間同士の関係なんて些細なコトや自分ではどうしようもないコト、知ったことではないコトでうつろうし、壊れもする。


 そういった意味では、何らかの目的意識を持ってそばにいる人間の方が分かりやすいし、信用できる。大声でぐいぐい来られるのは苦手だが、逆にいえばその程度。


「そういえばあなたの家どの辺? 浜松市内? それとも豊橋の方? 女子高生ライダーっていないってことはないけどほぼ皆無だし、住んでる場所が遠かったりするのよね」


「浜松。自動車街通りの近くのバイク用品店の近く」


「ああ、あの辺! 私よく行く! あの用品店も!」


「あなたは? 浜松?」


「フィリーでいいわよ」


「じゃあ私もメグで。あ、苗字は君影」


「キミカゲ? ニンジャと関係ある?」


「無い」


「私は磐田! 見附天神って知ってる?」


「聞いたことある」


「こんど磐田に来たら案内してあげる!」


「本音は?」


「企画にしたいから来てください!」


 ギャラで玉花亭ぎょっかていのプリンでも要求することにしよう。





 連絡先を交換した後、再びDS400Cの話題に戻っていった。


「このバイク、チェーンが無くない?」


「それはドライブシャフト! このカバーの中に歯車のついた棒が入ってて、それでエンジンの駆動力を後輪に伝えているの! チェーンドライブに比べてメンテナンスが少なくて済んでエネルギーロスも少ない優秀な駆動方法よ」


 自動車ではほとんどシャフトドライブが採用されているらしい。セダンの車に乗ると、後部座席の真ん中の座席の足元が膨らんでいることが多いが、あれはシャフトを通しているためだそうだ。


「デメリットといえば製造コストが高いことだけど、コストがかかっている分バイクの価値が高めているので結果オーライ!」


 そのコストを支払うのは自分だと思うのだが。


 しかし確かに、チェーンと違って伸びたり油が飛んだりしないという点はうらやましいところだった。見た目スタイリング重視のバイクであるならなおさらだ。乗り始めてそう時間は経っていないにも関わらず、ピカピカだったエストレヤのホイールやスポークは、なんだか得体のしれない汚れでくすんでいた。その正体は他でもない、走っているうちに付着した塵芥ちりあくたやチェーンから飛び散ったオイルだ。


「? これは?」


 後輪の上半分にかぶさるように伸びている金属の枠があった。平行四辺形に近い形をしていて、メッキのような加工をされている。シートカウルからバイクの側面に伸びている。


「それはバッグサポート。下に垂れ下がるようなサイドバッグをつける場合は、バッグが後輪に巻き込まれないようにしてあげなきゃいけないの。そのためのものよ」


「え、そうだったんだ」


 反対側も見てみる。同じように平行四辺形の金属枠があった。このバイクは両側にサイドバッグを装着できるようになっているようだ。


「知らなかった」


「用品店で買えばバッグサポートも必要ですよって教えてくれるけどね」


 ネットで買ったらそうもいかないだろう。知らず知らずのうちに危険なことをするところだった。


「……少しのことにも先達せんだつはあらまほしきことなり、か」


「でしょでしょ? 私と友達でいると、あなたも得るものがあると思うわ」


 伊達に日本で女子高生をしていないようだ。独り言のつもりだったが、古典もばっちり理解されていた。ちなみに通っている高校を尋ねると、めちゃくちゃ偏差値の高いところだった……天は二物を与えるらしい。


 なんだかむかついてきたので、一言だけ返すことにした。


「友達でいて損はしない、とは言わないんだね」


「バレた?」


 私に流し目をしつつ、彼女は愉快そうに肩を揺らした。ドラッグスターのエンブレムみたいな輝きが、その瞳には浮かんでいた。




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