ネモフィラとアルメリア_6
あたりはすっかり暗くなっていた。暗くなる前に次の都市に着くだろうと考えていたが、甘くみていたことを二人は思い知らされた。もっとも致し方ないことでもあった。どこへ向かうか、見当をつけていたわけでもなかった。
月は出てきたが、三日月よりも細く頼りない明かりだった。
アルはこのときになって、なにも武器になるものを持っていないことに気づいた。なにも銃とは言わなくても、宮殿にあった短剣の一つでも持ち出しておけばよかったと思った。とはいえ、彼は‘石’のおかげで読心ができるだけマシといえた。多勢に無勢でなければ、彼に不意打ちはおそらく不可能だろう。ただ、こういった夜道で警戒すべきなのは賊よりも野生の動物の方だった。とにかく今のところは、周りに危険の気配はなかった。
気が付くとネモは彼の横にぴったりくっつようにして歩いていた。
「どうした?」彼は思わず聞いた。
「だって、アル、あなたは怖くないの?」
「なにが?」
彼は聞き返した。それでも、彼女が恐怖心を抱いているということは分かっていた。
「だってこんなに暗いし、休めそうな所もないし」
「まあ、危なっかしくはあるだろうけど、しょうがないさ」
アル自身に自覚はなったが、無感情になるというのは、ある意味で恐怖心をも克服することでもあるようだった。
一方のネモは、それでも一人でなくてよかったというふうにも思っていた。もしこの場で一人だったらもっと心細い思いだっただろう。
しばらく二人は黙って進んでいた。遠くに、星の明かりとは違う明かりが瞬いているのに気が付いた。うっすらと見える山の稜線よりも下にあったから、都市か集落の明かりであることは予想できた。だが、松明やランといった明かりとは少し違うようにも思えた。
「星が山に落ちているみたい」
ネモは思わずそういう風な言い方をした。
「ん?」アルはその言葉を聞いて目を凝らした。「まあ、あれは都市の明かりだろうな」
さらに進むと、薄明りの中に都市のシルエットらしきものが見えた。やはり、見えていた明かりはこの都市のものだった。
親切にも、夜警として都市の入り口にいた番兵の一人が宿まで案内してくれることになった。
都市の街中にところどころ灯っている明かりは、ランタンとは違ってまったく揺らめいていなかった。
「変わった明かりね」
ネモがそう言うと、アルは一度立ち止まって街灯をにらんだ。
「あれは、電球みたいだな」
「でんきゅう?」
「ああ、電気の明かりだ」
「電気?何それ?」
ネモたちが暮らす都市には電球もなければ電気というものもなかった。製本の都市は大きな街だが、工場はボイラーの蒸気で動いていた。
「なんだか魔法みたいね」
「魔法じゃない。科学だ」
「あなた、詳しいのね」
「ああ、本で読んだ」
アルはさらりと答えたが、ネモには何か引っかかるものがあった。
「ねえ?」
しかし、案内していた番兵が声をかけた。
「お二人さん、こちらですよ。宿屋はすぐそこです」
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