第53話 ジョルバーナの企て
ハンナが司令部から出てくるとゲオルグが側に寄ってきた。
「あれ? どうしたのさ? なんかいい事でもあった? 特別休暇でも出たの?」
「そんなんじゃないわよ。グランマムのジョルバーナ様が会いたいんだって」
「え? なんでハンナに?」
「私の方が聞きたいわよ」
「この間の尋問で問題ないって結論になったはずなんだよね」
「そう思っていたんだけどね。まあ、行ってみれば分かるでしょ」
「それで、なんで嬉しそうなの?」
「それはね」
ハンナは周囲を見回す。格納庫の側まで来ていた。
「後で話すわ」
ハンナは格納庫に入り整備兵にアクス大佐の命令書を示す。
案内された予備のミストラルに乗り込むと発進準備をして、力場を展開した。親指を上げて準備が整ったことを示すと慎重に箒に魔力を流し込んでやる。最初はうまくいかなかったがやがて手ごたえを感じると同時にミストラルは格納庫を抜けて滑走路を疾走すると空に向けて飛び立った。
久しぶりのミストラルはすべてが軽い感じがして少々操縦に慣れない感じがしたが、振り返ってもアーウルト基地が見えなくなる頃には感覚を取り戻していた。
「コーラル機に比べるとなんかこうガンと来る感じがしなくてつまんない」
「そうかな。軽快な感じがするけど。それよりも、さっきの話の続きをしてよ。どうせ人には聞かせられない話なんでしょ」
「正解。あのね。ジョルバーナ様の住まいは……」
ハンナは命令書に書かれた座標を読み上げる。
「東岸にかなり近い場所なのよ。つまり」
「あの赤竜の子供に会おうって言うんだね」
「またまた正解。しばらく会ってないけど、どれくらい大きくなったかしらね」
「元気かどうかは心配しなくていいの?」
「それは大丈夫。ずっと微かに繋がっているから。危険な目にはあってないわ」
「そっか。それで眠いはずなのにご機嫌なんだ」
ハンナはミストラルを駆って東へ東へと突き進む。これなら日が落ちる前には着くだろう。なんでグランマムが自分を呼び出したか気にはなったが忘れることにした。せっかく空を飛んでいるのに嫌なことを考えるなんてもったいない。しかも、カンティとももうすぐ会えるのだ。
指定された座標に着く。魔女の隠棲先ともなれば探すのに苦労するかと思ったらすぐに見つかった。切り立った崖にへばりつくような形で立派な屋敷が立っていたのだった。かなり大きな建物で砦と言っても差し支えない規模を誇っている。建物前の庭に降りる。空港に降りるようなスムーズな着陸だった。
誰かが魔力をコントロールして箒の着陸をサポートしたのは間違いない。そして、その誰かはジョルバーナ以外には考えられなかった。箒から降りるのと同時に屋敷の正面玄関の扉が空く。中から木でできた大きな人形が数体出てくるとハンナを囲んで扉の方へと誘った。
ゲオルグは迷ったが結局ハンナについて行くことにした。ぴょんと飛び上がるとハンナの腕の中に納まる。木製の人形に連れて行かれたのは大きな立派な部屋だった。豪華な調度品に囲まれた応接セットにはジョルバーナが座っている。ハンナは一礼をして向かいの席に腰を下ろした。
「よく来たね」
「お呼びだと伺いましたので」
「空軍一のイカれた魔女でも、このジョルバーナの誘いは断れないってかい?」
「そういうわけでもないんですけど、とりあえず来てみました」
「そうかえ。まあ、悪いようにはせんよ」
ジョルバーナは立ち上がる。座っていると分からなかったがかなりの長身だった。ジョルバーナの後ろをついて行くと廊下の雰囲気が変わる。先ほどまでは漆喰だったのがむき出しの岩場に変わった。
しばらく歩くと大きな空間に出る。どうやら洞窟のようだった。はるか上の方に空が見えるが、日が差し込まないため周囲は薄暗い。洞窟の真ん中には何か大きなものが鎮座しているが何かは良く分からなかった。傍らのジョルバーナが腕を動かすと洞窟内に光があふれ出す。
洞窟の真ん中にそびえ立っているのは大きな塔のようなものだった。左右から伸びている木の枠組みに支えられて宙に浮いた状態で固定されている。その塔のようなものの下側からはハンナにとても馴染みのあるものがいくつも突き出していた。ハンナに見えている限りで10本以上ある。反対側にも同じようにあるとすると30本近い箒が据え付けられていることになる。
「これは何ですか? これだけの箒に同時に魔力を注ぎ込んだりしたら、物凄い勢いで飛び上がっちゃう。これじゃ、レムルスまで飛んで行っちゃうかも」
ハンナの言葉を聞いたジョルバーナは細い眼を見開いて、笑い声をあげた。
「さすがは見込んだだけのことがあるな」
「え? ということは、これはまさか」
「そうじゃ、レムルスまで飛んでいくための乗り物じゃ。もっとも、まだ動かしたことはないがの。これを乗りこなせるだけのパイロットが今まではおらなんだ。32もの箒を同期させて推進力を得るのは並大抵のことではないからな。しかし、ついに一人見つかった。それがお前じゃ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます