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『あ、もしもし。お母さん?』

『あらー!紗世ちゃん。元気にしてる?』

『まあね……。でさ、今ね地元の高校に帰って来てるんだ。どう?家に帰っても良い?」

『何言ってるのー!当たり前じゃないの。お父さんも喜ぶわよ。それで何時に帰って来るの?』

『え?十分後……』


 紗世の実家からここまで歩いて行ける距離だった。紗世の母親は少し寄り道でもして帰って来ると思い込んでいて返事に困り一瞬だけお互いが沈黙になる。それでも大事な娘の帰りを嫌がる素振りを感じさせたりはしない。紗世の両親も何故に帰りたがらないのかは察していた。


『じゃあ寄り道せずに帰って来るのね?それだったら車で迎えに行こうか?紗世ちゃんの食べたいおかずになる食材を買いに行きたいから』

『え?そんな、い、イイよ〜。恥ずかしいし……』

『そんなこと言わないの!お母さんは紗世ちゃんとより長く一緒にいたいから。ね?』


 久しぶりに再会する愛娘に母親は一歩も引かない。嬉しいといえば嬉しいし紗世はなんとも言えない心境だった。結局渋々母親の言うとおりにして校門で待ち合わせることになった。年末前の夕方の五時半はもう真っ暗になっていてカラスの鳴き声も聞こえない。紗世は着替え終わって職員室へ向かい監督へ挨拶をしに真っ暗な廊下を歩いていると「……先輩」と声が聞こえて紗世は『キャーッ!』と一瞬幽霊かと思い腰を抜かした。気の強い紗世もさすがに霊的なものは苦手なようだ。


「先輩、大丈夫ですか……?私です。米田です」

「あ〜、びっくりした〜……」


 紗世は『もっとハキハキと言いなさいよね!』とノドまで出かかりそうになっていたが米田へはそんな口調で言えない。少し深呼吸して自分を落ち着かせていつもの表情へと戻した。


「米田さん?どうしたの……」

「先輩……。私やっぱり明日の朝礼出たくないです……。もう怖くて……」


 紗世は米田の不安がる気持ちは十分理解出来る。でもここは私と監督に任せてほしいという思いでいた。米田を見ながらゆっくり鼻でため息を吐いて紗世は話し始めた。


「そうだよね……。米田さんの気持ちとても分かる。さっきも話したけど今回だけはちょっと私を信じてみてくれないかな?もちろん私と知り合って間もないよね?だから不安な気持ちになるのはムリもないよ……。どうしても怖いなら明日だけ休んでも良いと思うんだ。それから先を考えてみよ?ね?」

「じゃあそのことを一応監督へ言っておいた方が良いでしょうか……?」

「一人で言える?大丈夫?」

「はい……。監督は意外にきちんと私と向き合って話して下さるので」

「よし!じゃあ私は帰るね。もし不安で眠れそうにもなかったら電話してね」


 そう言って紗世は校門の方へと向かう。本当は監督へ帰る挨拶をしに行くつもりだったが無断で帰ることは明日謝ろうと米田へ時間を譲ることにした。紗世も監督も明日で解決出来るとは思っていない。しかし米田が率先して監督へ会話を求めに行く姿勢を見せてくれることが嬉しかった。米田自身も少しずつ心が強くなっていってることは間違いない。そして明日も間違いなく来るだろう。

 校舎から出て校門の方へ行くと一際目立つ黒いセダン車がハザードランプを点灯させて停まっている。紗世の実家の車だ。紗世の母親は薄暗くて寒い外に出て紗世を待っていた。そんな母親に寒い思いをさせたくない紗世は小走りで母親のいる車へと向かう。久しぶりの再会にお互い照れ笑いを見せている。


「お母さん風邪ひくよ?早く乗ろう」

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