家族団らんと米田の決意

1

「……米田さん、どうでした?」

「ああ。とりあえず辞めるのは免れたようだな。しかし今回の件は難しいよなぁ」

「ですね……。犯人は突きとめられ……そうですか?」

「どうだろうなぁ。朝礼で名乗り出てきてくれたら良いがなぁ」


 昼休みが終わって一平は一足先にバットを持って素振りをしていた。紗世が出て来ると一平は手を止めて呼び止める。


「オイ、あの子の悩み深刻のようだな。さっきすれ違ったらスゴイ目が腫れてたぜ……」

「そりゃあね……。ムリもないよ、まだ高二でしょ。ごめんね、本来ならアンタに檄を飛ばすために呼ばれたのにさ……」

「オレはオレでとっくの昔に目が覚めてるしそこは気にすんな。それよりあの子はお前の大事な後輩だもんな……。とにかく野球を嫌いにだけはなってほしくないってのがオレの願い。やっぱこれは女性同士でないと分からないと思うんだ。だから紗世でなきゃ難しいよ……。でもお前もあまり抱え込むなよ。無責任だけどオレは見守ることしか出来ないしさ……」

「ありがとう……。なんだか一平って日増しにたくましくなってるね!去年のドームの試合の顔つきとは大違い!それだけでも私は嬉しい……」

「惚れちゃっても良いんだぜ?」

「バカ……」


 揶揄うように言う一平の表情は少し欲を求めるような目つきだった。紗世も一平に対する気持ちが益々上がってきている。最後に本気で恋をしたのはここで、久々に恋をするのもこことなると紗世はこの学校に何か特別なものを感じてしまっていた。そう一平と会話をしている時、監督や球児たちがグラウンドへと出てきて軽いミーティングの後練習が始まった。米田もまだ目が腫れているが気を入れなおしてノートにメモを取っている。そんな米田を見ている紗世のもとへ監督が寄って来た。


「加美川って考えてみれば年明けには試験があるんじゃなかったか?」


『あ!』監督の問いかけに紗世は自分の通っている大学の後期試験が冬休み明けには始まることをすっかり忘れていた。それに科目によって冬休みの宿題代わりになるレポートも提出しなければならない。


「そうでしたね!レポートも全く書いてませんでした……」

「お前って奴は……。それじゃお前は年末まで良いか?年明けはもう本業に専念しろ」

「すみません。じゃあ年末まではいさせて頂きます。出来れば米田さんの件も解決させたいですし……」

「もう大晦日まであと四日か……。そうだな。俺もそこは努力するから。それと余計なお世話かもしれないが、たまには実家にも帰れよ」

「あ、はい……」


 紗世は大学へ入学して以来実家へは帰っていなかった。父親はこの県の県議会議員で母親は主婦兼秘書をしている。一人っ子で大事に育てられた紗世は高校時代の反抗期に入ったあたりからこの堅っ苦しい家が好きではなかった。紗世は監督命令には逆らえず『たまには帰ってみるか……』と少しうなだれている。そんな中、米田が不安そうな表情を見せながら紗世へ声をかけてきた。


「あの〜、さっき監督との会話が聞こえたんですけど先輩年末までしかいないんですか?」

「あ〜、聞こえてたんだ……。そうなの。ごめんね」

「私、正直先輩がいないと不安です」

「大丈夫!私は米田さんを元気にさせるきっかけを作ってあげるから。信じて!」


 紗世はこの時だからこそ翔子やオーナーの奥さん、そして香織がいてくれたらどれだけ助かるかと今とても彼女たちを恋しく思っていた。あと四日で解決するのはとても難しいだろう。とにかく明日の朝礼で心当たりのある球児が出てきてくれることを願うばかりだった。そしてこの日もケガ人が出ることなく練習が終わり紗世はスマートフォンを開いて母親へ電話をした。

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