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「あ〜……。頭痛い……。やっぱ香織さんの言うことは従わなきゃね〜」


『ふぁ〜ぁ……』と起き上がった紗世は頭痛と格闘しながら部屋の窓越しからグラウンドを見ていた。静まりかえった早朝、一人の球児がグラウンド内をランニングしている。『こんな朝早くから頑張ってるね〜、あの子誰〜?』と紗世は目を細めて遠方にいる球児を見ているとそれは昨日の練習明けに紗世へ声をかけた球児だった。紗世はちょっと酔い冷ましにグラウンドへと下りて行った。外は想像以上に冷たい風が強く吹いている。そんな中紗世がグラウンドのベンチへ座るとランニングをしていた球児が紗世へ気づき頭を下げてベンチの方へと走って来た。


「おはようございます!」

「おはよう……。こんな寒いのに朝から頑張ってるね」

「僕はどうしても試合に出たいので……」


『えらいっ!』と紗世はここに一平がいたら彼の爪の垢を煎じて飲ませたい気分だった。彼は結構走り込んでいて坊主頭から湯気が出ている。そんな彼に隣に座るよう促すと快く紗世の隣へと座った。


「そういえば君の名前を訊いてなかったね、良かったら教えて」

「前川です。前川真一。よろしくお願いします!」

「前川君ね。私は加美川紗世。名字で呼ぼうが下の名前で呼ぼうと君に任せるから」

「そ、そんな下の名前で呼ぶなんて出来ないです!岸田先輩に申し訳ないですし」

「ハハッ!前川君って素直だねー。一平とは同級生というだけで恋仲とかじゃないから」

「え!そうなんですか?昨日練習が終わってご飯食べながら僕たちみんな加美川先輩たちって付き合ってるみたいな話になってますよ?」


『もー。鬱陶しい!』と思えば思うほどまた頭痛が走る。前川も紗世から少しお酒の臭いが出ていることに気づいているが訊くと失礼にあたると思い知らないふりをしている。ただ横から見る紗世の表情に前川は少しほの字になってもいた。


「ねえ昨日さ前川君話の途中でいなくなっちゃったけど、続き聞かせてもらって良いかな?何だか気になっちゃってさ」

「米田が泣いてた理由は多分僕にあるんだと……」


 すると紗世は前川の返事に関係なく急に吐き気を催し出した。


「ごめん!やっぱ胃がムカムカする……。ちょっとコンビニまで付き合ってくれる?何か温かい飲み物でも奢るから」


 二人は紗世が高校に通っていた時からあるコンビニへ昨日の焼肉を食べに行った話などをしながら歩いて行った。そして胃腸薬とミネラルウオーターの入ったペットボトルに甘いお菓子を前川はホットココアを選び会計を済ましてコンビニ内にあるテーブルへ向かいあって座り紗世は早速市販薬を飲んで深呼吸する。速効性があるかどうかは知らないが紗世は徐々に表情が明るくなっていく。


「あ〜、マジでやばかったぁ……」


 前川はココアを遠慮がちに飲みながら紗世の見かけによらない言葉づかいに戸惑っている。紗世はそんな彼の顔を見て『ハッ!』と我に帰り照れ笑いを見せた。


「ごめんね。変なとこ見せちゃって」

「あ、あ〜、はい。相当飲まれてたんですね……」

「ん〜。でもジョッキ二杯だから。どうなんだろうね……。ま、いいや!それでさ、話に戻るけど米田さんの泣いた原因は自分にあるかもって言ってたけど」

「加美川先輩!この話は絶対に黙っといてくれますか?」

「だ、大丈夫よ。私、口が固いのが取り柄なんだから」


 前川のそらさない力の入った目つきが紗世へ真剣さを物語らせる。紗世もそこまで疑うぐらいなら言わなければ良いと負けず嫌いな性格が出始めていたが、ここは紗世が一歩引いて笑顔を見せながら前川へ頷いた。そんな紗世の対応に前川は信頼することに決めてゆっくり話し始める。


「実は僕、米田のことが好きなんです……。それで泣いてた彼女を見て僕は気になって仕方なかったんです」

「そっか……。でも素敵じゃない。米田さん可愛いらしいしね」

「でも本心は加美川先輩が美貌すぎると思ってます。全体朝礼の時初めて先輩を見たときはビックリしました!」

「そんな……。でもありがとう。それで米田さんの泣いてて心配で仕方なかったんだ?大丈夫よ、彼女は自分自身の性格と格闘してるの。だから前川君は今回の件と全く関係ないから気にしないで」


 紗世からそう言われながらも前川は煮えきらないような表情を見せて下を向いている。そんな前川の気持ちをよそに飲んだ胃腸薬が効いてきたのか紗世の胃にたまっているガスが『グゥ〜ッ』と音が鳴り出した。紗世は自分の胃袋に驚き両手でお腹を触り鳴り止まそうとするがそんなことなんて出来るはずもない。前川は飲みかけていたココアを止めて呆然と紗世を見ているが気を入れ直して前川は話し始めた。


「じゃあ先輩、そろそろ戻りませんか?あと一時間で練習が始まりますし」

「そうだね。年末年始はいるし遠慮なくグチとかも聞くから」

「本当に良いんですか?」

「もちろんだよ!ただ解決の糸口を見つけてあげられるかどうかは自信ないけど……。話すだけでもスッキリすることもあるだろうしさ。ごめん、私もう少しここで休んでたいから先に行っといてくれるかな?」

「分かりました!これからもよろしくお願いします!ご馳走さまでした!じゃあお先に失礼します」

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