久しぶりの故郷

1

 十二月もクリスマスシーズンに入り紗世は大学で本来なら年明けに後期試験が集中して実施されるのだが一科目だけ冬休み前に行われていた。『あ〜。マジでダルい……』終了のチャイムが鳴り試験会場から出て紗世は首を回しながら凝り固まった首筋を解している。そして歩いていると先には親友である君嶋翔子が彼氏と楽しそうに会話をしていて紗世に気付き声をかけてきた。


「サヨちゃーん!」

「あ、ショウコ。試験どうだった?あのぼんくらオヤジさ〜、最後の講義に『ここを試験のテーマにして出す』って言ってたのに内容と少し違ってない?」

「そー!それ!私もビックリしちゃったー!」

「もー、終わっちゃったからどうしようも出来ないけどね。さてと、今日から冬休みだね。ショウコはどうするの〜……って、あ、そうか」


 翔子は紗世に対して気まずそうな表情をしているが紗世は『別に気にしてもいないのに』とお互いに黙ったままだ。ちょっと空気が重くなってきたように感じた紗世は口を開いた。


「じゃあ、良いお年を迎えてね。来年もよろしく」


 そう言って紗世は二人から離れようとすると翔子が腕を掴んで引き止める。紗世の腕を握る翔子の手には結構力が入っていた。紗世は翔子がこんなに握力を持っていたなんて知らなかった。それは筋トレで鍛えたものなのかどうなのかも。


「ちょっとサヨちゃん、もう少し話そうよ〜。最近私から避けてない?」


 意外な言葉を投げかけられた紗世は翔子の真剣な眼差しを見て固まっている。別に避けてるなんてこれっぽっちも考えていない。ただ二人の邪魔をしちゃ悪いと紗世が気遣ってるだけだ。そんなことを翔子は少し紗世に対して被害妄想が出ている。


「もう何言ってんの?ショウコ。だって二人の時間を私が奪ってはいけないじゃない?」

「もうサヨちゃ〜ん、そんな気遣いなんて要らないから〜」

「じゃあさ、ショウコが一人の時に声をかけて。その時に楽しく話そうよ。彼氏さんには悪いけど」


 それを聞いた翔子の彼氏は空気を読んだのか『先に食堂へ行ってるから』と言って苦笑いを浮かべながらその場を後にした。


「ハハ……。私の印象ガタ落ちになっちゃったね」

「そんなことないよ〜。サヨちゃんごめんね。私が浮かれすぎてたの」

「ううん。ショウコは何も悪くない。っていうかそれが普通じゃない?誰だって好きな人とずっとそばにいたいもんだよ。ただ私にはちょっと……、ね」

「もう……、私たちってあの頃のように話せないのかな……」


 翔子は少ししょげている。せっかく顔のメイクまで上手く出来てより美人になっていってるのにそれが台無しだ。間違いなく翔子は泣くだろう。そして涙で化粧が崩れて大変になると紗世は慌てて気休めになるような言葉を探した。


「ちょ、ちょっと〜、どうしたのよ〜。ショウコらしくないよ。話したくなったらメールでも電話でも色んな手段があるじゃない。大丈夫。私にとってショウコは大切な友だちだから……。これからもその想いは変わらないよ。だから元気出して……」


 紗世は力強く翔子の手を握ってそう話した。翔子は下を向いて今にも泣き出しそうになっていたが紗世からの言葉を聞いてなんとか堪えている。そんな翔子の目を紗世は優しい目でずっと見つめていた。充血している翔子の目が元に戻るまで。翔子は紗世の想いが気になっていてそれを聞くべきかどうかとずっと悩んでいた。しかしもう耐えられない翔子はこの時を待っていた。嫌われたらどうしよう、もう話せなくなるなんてイヤ……、そんな負の思考が悪循環してまるで呪いにでもかかったかのようにアパートで一人でいる時は頭を抱えて悩みこむほどだった。


「サヨちゃんありがとう……。私サヨちゃんのことが気になっててずっと悩んでた。とても辛かったの……。でもこうやってサヨちゃんとお話ができてスッとした」

「ショウコ〜。アンタ私なんかのためにずっと悩んでたの?だったらその時に言わなきゃ〜。ダメだよ、一人で悩みこんだりしたら……。それって単なるやせ我慢に過ぎないよ……」

「だって〜、嫌われたくないも〜ん……」

「でもショウコがそれで我慢し過ぎて体調崩してさ、原因が私だったって聞かされたらどうなるの?知らないうちに私がショウコに害を与えてた罪悪感を背負わされるところだったんだよ……」

「それは〜……」


 翔子は言葉を返せない。今まで能天気な雰囲気を見せてきた紗世が今日は別人に感じている。もう翔子の目の充血は治っている。そして紗世はより力強く翔子の手を握って話し出した。


「ねえショウコ、ちゃんと私の目を見て聞いて。お願いだから一人で悩みこむようなことだけは絶対にしないで!ショウコが他人の陰口を言えない性格なのは分かってる。でもね、言いたいときは些細な事でもいいから遠慮なく言わなきゃダメよ!アルバイトして、その分汗を流して貯めたお金で化粧品を買ったりして日増しに美人になってさ彼氏が出来るまでに至ったんじゃない!勿体ないよ……。我慢してそれが台無しになるなんて」

「……サヨちゃん」

「だからこれからも仲良くして。私に何か言いたい事があれば遠慮なく言ってもらって構わない。私もショウコと一緒にいれて嬉しいし。それでどれだけ元気をもらったことか……」

「サヨちゃん……。サヨちゃんホントにありがとう!じゃあまたいつもどおり電話とかメールして良い?」

「もちろんだよ!寧ろ私の方からもさせてよ!じゃあ彼氏も待ってるだろうし、また電話か二人になれた時にまた話そ?」


 それを聞いて頷いた翔子の表情は晴れ晴れとして彼氏のところへと走って行った。そして足を止めて紗世へ手を振りまた走り出した。紗世も手を振って翔子が見えなくなるまでその場で見届けていた。年内に会えることは出来ないだろう。でも翔子とはいつまでも気持ちが繋がっている。また翔子が行き詰まった時聞いてあげれば良い。一人では解決出来ない悩みもあることを紗世は理解している。紗世も紗世で行き詰まったら誰かに相談するだろう。

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