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 そして守備練習に入りこの時点で一平のユニフォームが汗でビショビショになっている。他の選手のことなんて全く目に入らない。目に入るのは一平に向かってくるボールだけだった。そんな中三軍の監督は一平の練習態度をただ黙々と見ていた。するとその監督のもとへ一人の男性が声をかけてきた。


「どうだい、監督……?あの坊や少しは動けるようになってきたかい?」


 その声は昨日の夜一平と話していた管理人だった。三軍の監督も現役時代の入団した当初はお世話になっていた。だから今でも管理人には頭が上がらない。


「ええ。ちょっとしたアドバイスでこんなに目つきが変わるとは思いませんでしたねー。やっとコーチ陣にも意見を求めに行くようになってきてますよ」

「ハハ、そうか……。実力があるのにそれをムダにしてしまうのは現役時代のお前さんだけで十分だよ」


 監督はそう言われて苦笑いを浮かべている。監督自身はドラフト一位で入団したが、成績が伸び悩み代打要員として試合に出る日が多かった。その時から管理人は精神的に悩んでいることに気づいていて、その監督と一平が重なって見えてならなかった。そして監督からも当時の自分のようにならないようそれとなく一平へ諭すよう管理人へお願いをしておいた。それが昨日実現出来たわけだった。


「岸田には伝えてくれてたみたいですね」

「ん?ああ、監督の命令には従わなきゃなぁ……。でもあの坊やが元気出したのはもう一つあるんだ。ガールフレンドの存在さ……。練習の後二人で楽しそうにキャッチボールしてたよ……。その子からも何か言われたんじゃないかー?」

「へえ……。恋の力ってヤツですかねー」

「さあなぁ……。あとは坊やの頑張り次第だろうなぁ。てなわけでオレは監督の指示を守ったからなー」


 管理人はそう言ってベンチ裏の方へと入って行った。監督はその後ろ姿に頭を下げて選手たちの方へと視線を戻す。グラウンドの方は時間が経つごとに日差しが強くなっている。午前中の練習が終わり、一平は食堂でご飯を食べているが脚の筋肉痛が全く治らない。手にはマメが出来ている。そして午後の練習もユニフォームをとことん汚すまで練習していった。

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