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 紗世は香織の反応を待たずに即答で返した。なにより甘い物好きの紗世にとって一番楽しみにしていたと言っても過言ではない。そして言った後になって紗世は香織に対し無礼な態度を取ったことを理解した。なにせ今日の幹事は香織だったからだ。


「あ!す、すみません。香織さんの意見を待たずに勝手に進めちゃって……」

「とんでもないよー。寧ろ楽しんでくれてるみたいで私も嬉しいの。だから全然気にしてないから」


 そんな中、オーナーが三杯目のワインを持って来て、この日は赤ワインを出されなかった。それは香織はオーナー夫婦と前もって決めていた話だった。


「それじゃ本日の最後にお出しするワインはモスカート。甘口で今からお持ちするケーキに合う白ワイン」

「オーナーさんから見てどうですか?紗世ちゃんの顔色」


 笑いながら質問してくる香織に対しワインを注ぎながら紗世の表情を見て話し出した。オーナーと目が合った紗世は恥ずかしくなって下を向いている。


「ん〜。ほろ酔い気分って感じじゃない?顔が可愛らしいピンク色になってる」

「そうですか?少し火照ったような気分になった感じはしますけど……。香織さんはもう三杯はいけそうな表情をされてますね」

「そうかなぁ?私も結構アルコールが回ってきてるよー。でも香りと楽しみながら飲むなんてワインというお酒はとても美味しいですよねー」


 オーナーは笑顔で頷き紗世の方にも白ワインを注ぎ始めた。オーナーから見てもまだ余裕を持って飲んでいるように見えていて香織自身も口ではそう言ってもまだ全然酔ってなんかいない。二人はモスカートのワインを飲みながら奥さんの持ってくるケーキを心待ちにしていた。紗世は楽しみで胸が高まっていく。そしてキッチンから奥さんが出て来た。手に持っているのはカットされていないタルトの上にフルーツがたくさん載ったホールケーキ。あまりのボリュームに店内にいるお客さんからも注目されている。


「はーい、お待たせ。紗世ちゃんはこちらの方がメインになるのかな?」

「ホントすごーい!奥さんまた素敵なケーキを作りましたねー」


 紗世は出されたケーキに圧倒されて言葉が出ない。カットされたバナナ、りんご、キウイ、ブルーベリーなどなどフルーツを綺麗に盛りつけられていてその周りをホイップクリームで囲まれている。そしてケーキの真ん中にある白の板チョコに何か書かれていた。


『サヨちゃんハタチのお誕生日おめでとう!』


 そしてオーナーもキッチンから出て来て、来店しているお客さんへ呼びかけを行った。来店しているお客さんもなんとなく気づいていている。


「皆さま、お食事中に申し訳ありません!本日、こちらのテーブルに座ってらっしゃる加美川紗世さんが先週二十歳になるお誕生日を迎えられました!お手数ですが、今からお祝いの歌を皆さまで唄いたいと思います。ぜひご協力頂けますでしょうか?」


 すると十五卓埋まっているテーブルのお客さんたちはオーナーの呼びかけに了承の意味を込めて拍手で応えていた。紗世はそんな光景を見てただポカーンっと口を開けている。


「ありがとうございます!では、Happy birthday dear サーヨさーんで宜しいでしょうか?」


 その問いかけにも来店しているお客さんたちは拍手で答える。紗世は徐々に緊張が走る。まだ信じられない思いでいっぱいだった。


「では、私が『せーの!』と言いますのでそこから皆さま宜しくお願い致します!では心の準備の方は宜しいでしょうかー?では行きます、せーの!」


『Happy birthday to you〜、Happy birthday to you〜、Happy birthday dear サーヨさ〜ん、Happy birthday to you〜……』


 唄い終わった店内にいるオーナー夫婦を含めお客さんたちみんな紗世の方を見て笑顔で祝福の拍手を贈っている。紗世はケーキの真ん中に立ててある三本のろうそくの火に力入れて『ふっ!』と口で消した。それでもまだ拍手は続いている。香織は紗世へ立って会釈するように促されると言われるがままに慌てて立ち上がり緊張して強張った顔をなんとか笑顔を作って窓側、真ん中、壁側とそれぞれのお客さんの方へ会釈をした。

 そしてワイングラスを持って香織は紗世へ優しく言った。


「紗世ちゃん……、お誕生日おめでとう!」


 それから奥さんの出された美味しかったケーキも食べて二人は店を出た。ドアを開けるとアルコールの入った火照っている顔に心地よい風が吹いている。アルバイトが終わった後に受ける風とは言うまでもなく大違いだ。

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