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「ねえねえ、サヨちゃんの同級生ってどれ?」

「ほら、あそこ。背番号一二七って書かれてる選手」

「一二七っ?そんな背番号ってあったりするの?」


『だよね〜……』と思い翔子の問いに返す言葉が見つからない。それでも野球選手であることに変わりはない。


『良いよ。今日はアンタのプレースタイルとことん見定めてあげるから』


 そんな中、翔子は外野スタンド上にある大型スクリーンの方を指差しながら興奮気味に言う。


「サヨちゃん。そろそろスタメンが発表されるよーっ!」


 紗世はビールカップを手に持って翔子に返事をせず大型スクリーンをただ見守っている。ベンチにいるのは分かっていたがスタメンかどうかはまだ確定されていない。


『さーっ、本日のスターティングメンバーをご紹介しまーすっ!皆様っ、大型スクリーンの方をご覧下さいっ!』


 相手チームのスタメンが発表されていよいよホームチームのスタメン発表だ。相手のスタメンは女性が地味に発表するがホームチームにはDJ風の男性がノリの良い口調で発表を始める。これも一軍の試合の紹介の仕方と一緒だった。紗世は大型スクリーンの下にある外野スタンドへ目を向けると席が埋まっていて、この光景には驚いていた。内野スタンドも結構埋まっている。そしてスタメンの方は六番目まで打順が発表されてまだ一平の名前が出ない。


「サヨちゃん、まだ名前出ないね〜」

「う〜ん……、ベンチスタートかなぁ?」

『八番セカンドベースマン、キシダァー、イッペイッ!背番号一二七』

「キャー、サヨちゃんスタメンじゃんっ!」

「ハハ……。ちょっとハラハラさせられたね……」


 一平の武器は走塁だ。一、二番で呼ばれない時点で紗世の心の中はもうベンチスタートだと思っていた。一平は紗世の前で走り込みをしている。時々目が合っていたが、一平は厳しい表情を緩めない。


「ねー、岸田って選手。なかなかのイケメンじゃんっ」


 紗世は鋭い眼光で一平の練習を見ている。果たしてどうなるのか。しかし紗世は心の中で一平に訴えかけていた。


『今のアンタじゃ、こんな時だけそんな厳しい顔で試合に臨んでも五回くらいで相手チームに見透かされるよ……』


 一方で一平は紗世の心境よりもスタンドの埋まったドーム球場で活躍したいと強く意気込んでいた。


『もし、ここで結果を出せばひょっとしたらオレも……』


 そして球審が右手を上げて試合開始の合図を出した。一平はセカンドの守備についている。紗世は固唾を飲んで一平を観ていた。早速相手チームの一番打者がセカンドの頭上へ大きく打ち上げ、一平は落下地点へ来て冷静に掴んだ。その光景を観ても紗世は微動だにしない。一つ感心したのはユニホーム姿を見るのは初めてで意外に高校時代よりは下半身がしっかりと引き締まっていたことだ。先日の練習を見てて、そこには何故か目が行かなかった。


『アイツ、結構カラダづくりしてたんだね……』


 そして二回に入りいよいよ一平の打順へと回ってきた。左打ちの一平は高校時代と全く違う構え方をしている。これが正しいかどうかまでは紗世にも分からない。続けて二球目相手ピッチャーは甘いインコースを投げてきた。紗世は『打てっ!』と心の中で言ったが一平は見送ってしまう。


『はぁ?何で今の振らないの〜……』


 三球目、四球目と空振りに近いファウルを打つが粘っているのかそうではないのか、紗世にはもう答えが出ている。そして五球目、厳しい外角の球を振ってしまい三振に終わった。一平はとても悔しそうな表情を見せている。紗世は背もたれに寄りかかりため息をついた。翔子はそんな紗世を見て言葉が出てこない。


「アイツ、ホントなんなの……」

「サヨちゃん……」


 その後も凡打に終わり第三打席、ようやく内野安打で塁に出た。しかし紗世の中ではそんなの一平が儲かっただけにすぎないと見ている。一番頭にきたのは塁に出てファーストにいる相手チームの選手と笑いながら会話していたことだった。紗世の怒りは徐々に増していく。

 結局一平は大きな活躍を観せること無く試合が終わりドームから出ると紗世はため息しか出なかった。


「ねー、あの岸田って選手。今日は活躍出来なかったね」

「うん……。あれじゃあ今年までかもね……」


 紗世はやはりスコアを書く以前の問題だと分かり、ノートなんて持ってきてたら相当自分自身を憎んでいただろう。紗世もそこまでお人好しではない。


「サヨちゃんさ、明日も観に行ってあげるの?」

「ん〜……。今思案中って感じかなぁ。正直言って今日と変わんないと思うんだよね……」


 しかしメンタル面で欠けているところは高校時代からだったが、それでも先発メンバーに名を連ねるまで必死に練習していた姿を昨日のことのように紗世は鮮明に覚えている。だからこそ安易に一平を見放すようなことだけはしたくなかった。


『とりあえず、明日も行ってみよう……。は〜あ……。一平次第では最悪な誕生日会になるかもなぁ』

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