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 翌日三限目に入って合流し、二人は受ける講義も無く静かな大学内を歩いていた。


「昨日はゴメンね〜っ。私どうしても夜に弱いの」

「ううん。私の方こそ真夜中の十二時過ぎだもんね、ホントにゴメンね」


 二人は真夜中の電話のやりとりを詫びあっていた。もう大学の敷地内は新年度に入った時よりは大分少なくなっている。講義の時間中だけあって外は五月に入り閑散としていた。翔子もしていたサークルの勧誘はもうどこもしていない。


「でも私知らなかったなー、紗世ちゃんにそんな同級生がいたなんて」

「うん。私もねもう戦力外になってるもんだと思ってたんだ。だから通路ですれ違った時はビックリだよ!」

「うわぁ……。もしその同級生が一軍選手になったら〜……」


 胸の前に両手を握って夢を見ているかのように上の空になっている翔子に紗世は目を細くして話しかけた。


「ちょっとショウコ〜。あんた何か変なこと考えてないでしょーね?」


 そう言われた翔子は我に帰ったように慌てて紗世へ手を振っている。そんな仕草を見せるも紗世はジローっと翔子を見ていた。


「ショウコの考えはちょっと望み通りには行かないだろうね……」

「え?でも戦力外にならず、まだ頑張ってる訳でしょ?だったらまだ望みがあるじゃ〜ん。は〜あ……、私もサヨちゃんみたいに可愛い顔してたらなぁ〜」


 翔子の夢を見る表情に呆れて紗世は何も言えなかった。紗世は高校時代の一平を知っている。思い出しても足の速さと守備はたしかに良かった。しかしバッティングがイマイチだったのを覚えている。紗世は左打者の一平がどれだけチャンスの時に六、四、三のダブルプレーにされてチームに迷惑をかけたことか。それでも連携プレー好きの紗世にとってはそんなカッコいいプレーを『敵ながらあっぱれ!』と思いながら見ていた。


「じゃあ、私サークルの方に顔だしてくるね。新人のちょっとした歓迎会をする事になってて、いつにするか打ち合わせをしなきゃいけないから」

「うんっ!じゃあ、土曜日のお昼にドームでね」


 そう言って翔子は手を振り足早に去っていく。紗世はそんな翔子の後ろ姿を見届けていた。翔子もそんなに自分を卑下するような身なりではない。眼鏡をかけてはいるがだからと言ってそれが似合ってない訳でもなく綺麗な目をしている。時々紗世は眼鏡を外す時の翔子の仕草を見てドキッとする事もあった。


『香織さんもショウコも見た目が良いのにホント勿体無いなぁ……』


 しかし、紗世が思っているほど香織も翔子も恋愛に貪欲というわけではない。逆に紗世を哀れに見ているかもしれない。


『そっか〜、一平に翔子?見た目は悪くないカップルかもなぁ。香織さんはまだカッコいい人を選ぶべき。じゃあ私は?』


 そうこう考えているうちにこの間借りていた小説を返しに図書館へ来ていた。しかし、何となく甘いものを食べたい紗世は下の喫茶店へ行って生クリームたっぷりのパフェにホットコーヒーを注文した。この二つで気になるお値段はなんとたったの四百八十円!


『ビンボーな私にとってホントに感謝っ!こんだけのボリュームでこの価格なんだもん』


 紗世はカウンターで出来上がったのを取りに行き嬉しそうにテーブルへ戻っていく。その店内にいる何組かは開いた口が塞がらない。


『スゴイなぁ……。あんなボリューム一人で食べるんだからなぁ』


 どう思われようと紗世には全く気にならなかった。


『食べたい時に美味しいものを食べる!』


 食べても太らない体質の紗世はこの時だけは両親に感謝している。紗世は小さい頃から大食いで常に何かを食べていたい性格だった。一度、紗世が中学時代にそんな姿を見て心配になった担任は個別に健康診断を受けに行かせたくらいだ。結局何も異常がなく当時の担任はいつも給食の時間には首を傾げていた。それをよそに紗世は給食のおかわりをしては食べてとても幸せそうだった。

 美味しいパフェを食べている時、テーブルに置いていたスマートフォンのバイブレーションが鳴り響く。


『もー、誰よー。せっかく幸せな気分を満喫してるのにーっ』


 そう思いながらふくれっ面を見せてスマートフォンの画面を見ると香織からで紗世は緊張した顔に変わり慌てて電話に出た。


『もしもし?お疲れ様です』

『お疲れ様。紗世ちゃん、今ちょっと良いかな?』

『はい。どうされました?』

『紗世ちゃんの誕生日会今度の日曜日にしようと思うんだけど、どう?』


 そうだった。紗世は曜日以外の日にちまでは把握していなかった。そう、一平のある土日の試合にはもう紗世の誕生日の六日を過ぎている。


『すみません……。自分の誕生日なのに忘れてました』


 それを聞いた香織は声を出して笑っている。紗世は紗世でとても恥ずかしい


『それでどうかな?時間も空けれそう?』

『ちなみに夕方からという形で良かったですよね?』

『う〜ん、そうね〜。まだ早い時間が良い?』

『あ、いえ。その日の夕方までは友だちとドームに行って三軍の試合を観に行くことになっちゃって……』

『あー、そうだったんだー。じゃあこの間の時間帯で良いんじゃない?』

『すみません。ご迷惑をお掛けしちゃって……』

『大丈夫だって。奥さんも楽しみにしてるから、じゃあまた連絡するね』

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