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「どーしたのよ、そんな暗い顔して〜。また栗原君?」


 大学の食堂でぼんやりと下を向いている紗世にシビレを切らした翔子は質問を投げかけた。いつもの紗世じゃないと思って心配そうに見ている。それでも紗世はなかなか口を開こうとしない。

 この日は大学内で一番広い食堂にいて昼休み前だというのにテーブルはほぼ埋まっている。そんな中、紗世はシンプルに素うどんを食べていた。今の紗世の心境では喉に通りやすい食べ物しか口に入らない。翔子は日替わりメニューのチキン南蛮定食を食べているが、意外に味も量もボリュームがあって全部食べきれずにいる。そして紗世は健二がいないか確認するため周囲を見回しゆっくりと重い口を開いた。最初は心配していた翔子もそんな紗世を見て少し呆れたような表情を浮かべている。


「いや、それがね。健二ってバイトしてたんだ」

「えぇ!そうだったのっ?あの栗原君が?」

「ちょ、ちょっと声が大きいよ〜」


 そう言われた翔子は両手で口を隠し紗世を見ている。しかし翔子から見ても健二がアルバイトをしてるような雰囲気を感じていなかっただけに驚きを隠せない。


「ご、ごめ〜ん……。それで、何のバイトしてたの?」

「それがさ、私の同じバイト先なんだ。あ、でも彼はグッズ販売店の方。ドームの外にあるでしょ?」

「あ〜、はいはい。いつから?最近?」

「私がバイトする前から……」

「ウソ〜っ。でも、あそこはあそこで試合の日なんてお客さんも多いし大変なんじゃないの?それって確か?」

「うん。私が従業員通用口から出たら健二が従業員専用のTシャツを着てた」


 その後も健二が何故アルバイトをしている事を言わなかったのかなどの経緯を翔子に詳しく説明した。それを聞いた翔子は開いた口が塞がらない。それは無理もない、翔子も健二を知っているしその風貌からしてそんなしっかりした性格だったなんて思いもよらなかった。


「それで栗原君とはどうするの?」


 紗世は両手で頭を押さえながら俯いている。翔子も健二に対し一方的な偏見を持ち過ぎたことに罪悪感を抱いていた。それは紗世も同じで言うまでもない。しかし紗世は本来の健二を見てしまったところで想いは変わらなかった。


「う〜ん……。やっぱり恋の対象にはちょっと……」

「そっか〜。何だか私たち栗原君に悪い思いをさせちゃったね……」

「そこなの。私も一方的で健二の好意をほとんどアダで返したようなものだったから」


 昼休みに入った食堂にはさらに多くの学生が券売機へ並んでいた。みんな楽しそうに会話をしている。紗世はその光景を見てため息をついた。それが伝染したかのように翔子も肘をついて大きくため息をついている。さすがの紗世も罪悪感を隠せない。こんな経験なんて初めての事だったから。


「それで栗原君から連絡あったの?」

「ううん。やっぱりした方がいいかなぁ……」

「う〜ん、難しいね……。でも今回のサヨちゃんのヘコみって栗原君と別れた事じゃなくて、先走り過ぎて偏見を持ってしまった上にそれで栗原君をイヤな思いにさせちゃったって事なんでしょ?」

「まあね……。ショウコってスゴイね……」

「別にスゴくないよ。じゃあさ、しばらくは様子見でいいんじゃないかな。それで栗原君に新しい恋人が出来たら御の字でいいじゃん。サヨちゃんはサヨちゃんで可愛いんだからさ、すぐに素敵な人が見つかるって」

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