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 今日は移動日でドーム球場もイベントが無く紗世は土日の二日間で出た疲れを残したまま親友の翔子と二限目から一緒に講義を受けていた。この講義は受講する生徒の人数も多いため二号館の二百人は入る広い会場で行われている。紗世の通っている大学も歴史は長いが知名度と学力では香織の通う女子大の方が上だ。


「はぁ〜……。あと少しで終わるね〜。サヨちゃん、お昼はまたアイツと?」

「う〜ん。正直嫌なんだけどね〜。ショウコ〜、なんか言い訳ない〜?私マジで今日キツくてさ健二の相手までする元気無いんだけど」


 ノートを取りながら小声で話している二人の会話を邪魔するように紗世のスマートフォンにバイブ音が鳴る。


「やっぱ健二からだ〜。もうホントウザい」

「私もアイツは苦手。話し方がキモいんだよね〜」


『講義終わったらどこで食べる?』


「ね〜、ショウコってば〜。何か言い訳考えてよ〜」

「私の名前使いなよ。良いよ」

「ショウコ〜っ!ありがとうっ!」


『ごめん、今日はショウコが私だけにどうしても相談したい事があるんだって。だから昼休みは勘弁ね』


 終業のチャイムが鳴り広い会場では二箇所の出入り口を多くの学生がゆっくりと退室している中、紗世は座ったまま腕を上へ伸ばし大きく口を開けてあくびをしている。疲れが全く取れていないためか今日はずっとあくびをしている。翔子は疲れきった表情を見せている紗世を心配そうにメガネ越しから優しく見ていた。紗世も見られていることに気づき翔子へ照れ笑いを見せている。


「大分いなくなってきたね、私たちも出よ」

「そうだね。ショウコはお昼どうするの?」

「もちろん、サヨちゃんにお供させて頂きますよ〜」


 二人はそのまま二号館にある狭い喫茶店のような食堂で昼食を摂ることにした。翔子はミートソースのパスタにして紗世は適当に入り口のあるスタンド看板に手書きで書かれた日替わりランチにした。この日のメニューはハンバーグ定食で、紗世は値段が変わらないためライスを大盛りにしてもらっている。


「サヨちゃん、スゴイ食欲ね!」

「ん?普通じゃない?こんぐらい食べなきゃやってらんないもん」

「だよね〜。サヨちゃんのバイト、キツそうだもんね……」

「まあね。でも、私バイト先で尊敬する先輩がいるの。その人見てると頑張らなきゃって」

「へえ。まさかイケメンを見つけちゃった?」


 紗世はライスを口に頬張りながら翔子に笑顔を見せて顔を横に振る。翔子は意外だったのか首を傾げ紗世の話を待っている。


「違うよ〜、女性なんだ。この県にある名門の女子大の四年生」


 この県にある名門の女子大まで言えばどれほどの大学なのか、誰もがすぐに分かる。


「えー!そうなんだ。イメージ湧かないなぁ。見た目そんなに美人じゃないの?その先輩って」

「スゴイ美人っ。噂じゃテレビ局のアナウンサー試験をこの間受けに行ったんだって。でさ、その先輩って決して弱音吐かないの。私なんて体力に自信がある方なんだけど先輩はそんなタイプには見えないんだよねー。慣れなのかなぁ、休憩中でも笑顔だけは決して絶やさないでいるの」

「へえー。それってスゴイね。私なんて絶対に一日と持たないよ〜。それでも紗世ちゃんが尊敬するぐらいだから、よほどの人なんだね。プロ意識が強いのかな?」


 紗世はフォークで一口サイズにしたハンバーグを口に入れかけて翔子の言葉にピンと来たような顔になり固まっている。翔子は紗世の反応に一瞬ビクッとしたが、

『とりあえず口に入れなさいよ』と言いかけそうになった。


「そうだっ!ショウコ、それだよっ」

「でも言い方悪いけどたかがバイトでしょ?そこまで意識しなきゃいけないのかなぁ」

「たしかにバイトだけどさ、私たちの場合は歩合制なんだっ。やっぱ先輩は売るからには負けたくないとかじゃなくて一生懸命になって一杯でも多く売ろうとしてるのかもしれないっ。何でショウコの一言に私気付かなかったんだろ……」


 じっとして考えている紗世を見てパスタを食べ終わった翔子は紗世の分と一緒に空になったコップを持ってウォータークーラーの所へ行きお水を入れに行った。戻ってきてお水を入れてきたコップをテーブルに置くと翔子は話を続ける。


「でもサヨちゃんも一生懸命やってるんでしょ?」

「う〜ん……。そのつもりなんだけどね……。でも、結果的には先輩からスゴイ差を付けられててさ」

「サヨちゃんもスゴイ可愛いのにね。やっぱキャリアの問題もあるんじゃない?だってその人って今のバイト長いんでしょ?」

「まあね。でも私も先輩みたいな後ろ姿を見せるくらいの存在になりたいなぁ。ホント憧れるなぁ」

「なれるよっ、きっと。だってサヨちゃん今のバイトもう二年目でしょ?そしてシーズンが終われば年末年始は短期のバイトまでしてさ。私からするとそれはそれでスゴイと思うけどね」

「私ってさ、別に両親と仲が良い訳じゃないから実家に帰ってもすること無いし」


 しばらく会話が続き、翔子はテーブルに肘ついて紗世の話をそのまま聞いていた。

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