第358話 メッセージカード


 杏里が袋から取り出したのは、少し長めの小箱。

もちろんクリスマス用にラッピングしてもらったものだ。


「司君、これは?」


 マフラーも頑張って作ったけど、杏里にはびっくりするような何かを一つはプレゼントしたい。

少しだけ懐も温かいので、ちょっとだけサプライズ。


「開けてみてよ」


 箱に飾られたリボンをほどき、包み紙を開けていく杏里。

気に入ってくれるといいな……。


 包み紙から姿を現したのは白い箱。

杏里はゆっくりを箱を開け始めた。


「わぁ……」


 杏里の瞳が輝き、箱の中身を見つめている。

そして、中から取り出したのは一本のネックレス。


「どう?」

「かわいいね……」


 細めのシルバーチェーンに取り付けられた銀色ハートが付いたネックレス。

お値段プライスレス。


「つけてあげるよ」


 俺は席を立ち、杏里の背中側に回る。

あんまり意識したことなかったけど、杏里のうなじを見て、少しだけ心拍数が上がる。

普段見慣れているはずなのに、こんな時はドキドキするもんなんだな。

杏里の手に握られたネックレスを手に取り、首に回してつけてあげる。


「ありがとう。どうかな? 似合う?」


 思った通り、細めのネックレスは杏里によく似合いますね。


「似合うよ。マフラーだけだとちょっと寂しいから、それはおまけな」

「これがおまけなんだ。そっか、おまけなんだね……」

「そ、マフラーが本命。何回か手直ししたけど、それなりの形にはなっているだろ?」


 杏里が袋から出したメイドイン司のマフラー。

世界に一つしかしない、完全ハンドメイドの高級品だ。

だがしかし、杏里のテンションは普通だ。


「うん、司君も頑張ったもんね。うれしいよ」


 おかしい、もう少しテンション上げてくれてもいいんだぜ。

一緒に苦労して作ったじゃないか。どこか変なのか?


「マフラー、変なところあるか?」

「ううん。全くないとは言えないけど、普通に編めてると思うよ。どうかしたの?」

「いや、なんかあんまり嬉しく無いようだったから……」


 杏里は少しあたふたしたような感じでマフラーを首に巻き始める。


「えっとね、マフラーは一緒に作ったから貰えるのわかっていたし、おまけのほうが逆にびっくりしちゃって……」

「そっか……」

「わ、私のほうも開けてみてよっ」


 杏里からもらった袋の紐を解き、中身を除く。

お、これはマフラー。と、これはたぶん服っぽいな。

ん? あとは何か封筒が入っている?


 気になって封筒を取り出し、表面を見てみる。


『メリークリスマス 司君へ』


 お、これはクリスマスカードかな?


「それはね、司君へのクリスマスカード」

「開けてみても?」

「もちろんいいよ」


 封筒を開け、中のクリスマスカードを開けてみる。

中には大きなツリーとサンタクロースが描かれたかわいいカード。


――――


 司君へ メリークリスマス


 今日はクリスマス。

私たちが初めて一緒に過ごすクリスマスだね。

今日は司君とデートだったけど、楽しかった?

私はすっごく楽しかったよ。


 司君と楽しい時間を、もっともっと一緒に過ごしたい。

来年も、再来年も、その次のクリスマスも一緒に過ごしたい。


 いつか、二人が三人になっても、四人になっても家族みんなで幸せなクリスマスを過ごせますように。


 大好きだよ。 杏里より


――――


 読み終わったとたん、鼓動が早くなるのが分かった。

そして、たぶん顔が赤くなっているだろう。

暑い、熱があるようだ。


 視線を上げると、向かいに座っていたはずの杏里がいなくなっている。

あれ? さっきまでいたのに。


――ぎゅっ 


 突然後ろから抱きしめられた。

漂う石鹸の香り、頬に触れる杏里の髪。

そして、伝わってくる温かいぬくもり。


「杏里?」

「最後まで読んでくれた?」

「うん、読んだよ。しっかりと最後まで」

「来年も、再来年も一緒にいてくれる?」


 杏里の頬に手を当て、答える。


「もちろん。毎年クリスマスは一緒に過ごそう。これからもずっと……」


 ふと、気が付くと杏里の唇が俺の唇をふさいでいる。

そして、すぐに杏里は自分の席に戻ってしまった。


 え? 何? 今、何されたの!


「杏里?」

「おまけ」

「え?」

「それは、おまけ。司君もくれたでしょ? おまけ」

「え? あ、うん?」

「マフラーもよかったらつけてみてよ」


 杏里はそのまま頬を赤くし、残ったケーキを食べ始めた。

俺は袋に入ったマフラーを手に取り、首に巻く。


「どう? 似合うか?」


 少し照れ気味に杏里は答える。


「もちろん。司君のことを考えながら編みましたから。温かいでしょ?」

「あぁ、温かいな……」

「クリスマス、楽しいね」

「あぁ、こんなクリスマスならずっと続けばいいのにな」


 杏里が笑みをこぼし、俺も微笑む。

二人っきりのクリスマスはいつまで続くのだろうか。

杏里のメッセージの通り、いつか家族になったら三人で迎える日も来るのだろうか。


「ありがとう。カードもマフラーも」

「こちらこそ。ありがとう。ケーキもおいしいね」


 杏里の笑顔を見ながらケーキを食べる。

スマホで二人の写真を残し、次第にケーキ皿も空になってしまった。


「司君……」


 杏里がウサギのような目で俺を見てくる。


「ダメ。残りは明日」

「うぅ……」

「そんな声出してもダメ。今日はクレープも食べただろ?」

「っう。確かに食べましたが、甘いものは別腹なんです!」

「んなことはない! 太るぞ?」

「……きょ、今日だけは大丈夫!」


 何が大丈夫なのかは不明ですね。


「明日の朝にでも食べよう。ほら、スープもチキンも残っているだろ?」

「……うん。しょうがないなぁ」


 そのセリフは俺のほうである。


 楽しいクリスマスもそろそろ終わりのベルが鳴る。


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