第236話 家族で囲む食卓
「お帰り、少し遅かったね」
「ごめんねー、ちょっと買い物してきちゃった」
「ただいま。変わったことは?」
相変わらず声のトーンが低い父さんだな。
でも、こうして毎日仕事に行ってくれているから、俺も安心して学校に行けるし、一人暮らしできているんだよな。
あ、今は一人じゃないけど……。
「特に変わった事は無いな。夕飯できているけど、すぐに食べる?」
「おぉー、ありがとー。帰ってきてすぐにご飯とか、幸せだなー。何作ったの?」
母さんがニコニコしながら話しかけてくる。
「カレーと肉じゃが。あ、そうだ。真奈が来ている、今日泊まっていくって」
「あー、聞いてるよ。さっき真奈ちゃんのお母さんから連絡来てたし」
そして、数十分後食卓には本日の夕飯が並ぶ。
肉じゃがにカレー、そして俺が作った豚汁。
何だか同じ食材で作った感が否めないが、まぁ、おいしいからいいよね!
「おいしそー。杏里ちゃんも真奈ちゃんもありがとうねー」
「どれ、早速いただくとしようか」
両親はニコニコしながら箸を手に持つ。
が、俺も作ったのに何も言われていない気がする。
べ、別に気にしてなんかないんだし。
感謝とかされても、困るだけだし!
「「いただきまーす」」
杏里の作った肉じゃが。
ジャガイモほくほく、ニンジン甘め。
しかもニンジンは花の形に切られており、サヤエンドウもパリッとしている。
お主、腕を上げおったな! うまいじゃないですか!
そして、真奈のカレー。
あ、甘ーーい! 甘口じゃないですか!
でも、ゴロっとしたお野菜にお肉がジューシー。
真奈、いつでも嫁に行けるぞ。
カレーは家庭の味だ。辛くないカレー、良いですね!
「おいしー! この肉じゃがは杏里ちゃんかな?」
「当たりです。どうですかね?」
「おいしいよっ、しっかりと味が付いているし、飾りもできている。いつでもお嫁さんになれるねっ」
「うむ……。母さんと似たような味だな。なかなか、うまい……」
「真奈もカレー作ったんだよ! ちょっと甘めかもしれないけど」
「真奈ちゃんも随分上達したのねー。カレーもおいしいよー」
和やかな雰囲気で食卓を囲む。
大勢で食べる食事は楽しいし、おいしい。
そういえば家族で食事をするのも久々な気がする。
「どうだ、司。一人で食べるより、みんなで食べた方がいいだろ?」
父さんが俺に話しかけてきた。
今まで当たり前だった家族で食事をする事。
でも、一人になって初めて分かった、孤独感。
今まで当たり前だと感じていた食事も、一人だと何だか味けない。
それは、杏里と二人で食べるようになってからも、感じていたことだ。
「そう、だね。みんなで食べる食事がうまいよ」
「司も家族を持つと分かるようになるさ。家族はいつまでも家族。いつでも帰ってきていいんだからな」
あまり実家に帰る事もしなかったし、それでいいような気がしていた。
でも、もう少し頻繁に帰ってきてもいいかなと、思った。
「そうだね。また、帰ってきてもいいかな?」
「もちろん。いつでも帰ってきなさい。ここはお前の帰ってくる場所でもあるんだ。いつでも、どんな時でも私達はお前の帰りを待っているぞ」
父さんからそう言われると安心する。
たとえ何かあっても、どんな時でも、いつでも帰れる場所。
今住んでいる下宿が俺の帰る場所だと思っていたけど、本当に帰れるところって家族の所なのかもしれない。
「あの、真奈も来ていいかな?」
「もちろんー。真奈ちゃんも気にしなくていいのよー。自分の家と思って来てね」
「ありがとうおばさん! へへ、真奈は自分の家が二個になったよ」
「私も、来ていいでしょうか?」
杏里が少し寂しそうな表情で母さんに話しかけている。
「何言ってるの! 当たり前じゃないの、いつでも来ていいのよっ。だって、杏里ちゃんは将来、娘になるんですもの―」
「ぼふぁぁ! ゴホゴホッ……」
俺は、飲んでいたトン汁を口から垂らしてしまった。
「司兄、汚い」
真奈、ジト目で俺を見るな。
「はいティッシュ。これで足りる?」
「す、すまん」
杏里からティッシュを貰い、口を拭く。
もったいない、折角のトン汁が。
「司、なに焦ってるの?」
「か、母さんが変なこと言うから……」
「そう? だって司だってその気あるんだよね?」
そ、そりゃ、あれですよ。ね、あれだってば。
「あー、んー、俺は……」
家族で囲んでいる食卓で俺は何をしている?
ここで何を期待されているんだ?
母さんにはめられた?
杏里! その星のようなキラキラ光る目で俺を見ないでくれ!
真奈! 何そのワクワクした表情。俺に何を期待してる?
チラッと横目で父さんを見ると、カレーをモクモク食べている。
あ、俺から視線を外した……。父さん、こういう時には何か言ってくれるんじゃないの?
何その『後は頑張れ!』って表情は!
「司君?」
杏里が追い打ちをかけてくる。
ここは正直に答えてもいいんですよね!
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