第152話 お泊り会


 衝撃の一言。予定では一人で可能な限り進めると言っていた。

三日もあれば終わると予定を組んでいたが、どうも違うらしい。


「彩音、もしかしてバイトが始まるまでに終わらないの?」


 半泣きで俺達に目線を送ってくる杉本。

いや、でもさ、クリアしないと結構まずいですよ?


「いやー、俺も少し手伝ったんだけど、部屋が結構狭くて作業効率が――」


「た、高山君?」


 杉本の部屋に高山がおじゃましている。

それはそういう事ですか? 突っ込んでもいいのか?


「あー! 喉かわいた。天童、ジュース買いに行かないか?」


 無理やり袖を掴まれ、教室から自販機まで連行されてしまった。

自販機で互いにジュースを買う。

俺はコーヒー牛乳、高山は炭酸だ。


「で、どうなんだよ? 杉本とは」


「んー、ボチボチ?」


「それじゃ分からん。具体的には?」


 いつもの高山と違う態度だ。もじもじしている。

ちょっと気持ち悪い気もするが、純情なのか?

確か杉本は大きいとか、覗けそうだとか、普通に話していたよね?


「彩音の家に行った。二人で部屋にこもって、貼ったり塗ったりした」


 何を? 何をしたって?

それはどんなことなんですか?


「彩音は結構恥ずかしがって、あまり見せてくれなかったけど、最終的には全部見せてくれたんだ」


 見たのか! 全部見せてくれたのか!

す、すごいぞ高山。おまえは戦士だ!


「で、そこから?」


「あぁ、思っていた以上に綺麗だった。俺は隅から隅まで見たよ」


 見たのか―! 見たんだな! で、それから!


「ほとんど真っ白なんだ。きれいなんだけど、真っ白なんだよ」


 ほぅ。真っ白なんですね。そうですか……。


「でも、だめなんだ! 時間が、時間が足りない! それに部屋が狭いんだ! 天童、何とかしてくれ!」


「す、すまん。意味が分からない。説明してくれ」


「場所が無い。彩音の部屋が狭いんだ。もっと、広い場所が必要だ」


 どう考えればいいんだ? 狭い? 杉本の部屋が狭いから広い場所が必要だと。


「そ、それは難しいな……。場所は何ともならんだろ」


「そうなんだよ。隣の部屋には弟が良くいるし、遅くなったら親が帰って来るし」


 あー、分かる! そうだよね、二人っきりになる時間が足りないのね!

場所も欲しいのね。分かるわ―。


「そっか、杉本も高山も大変だな」


 ジュースを片手に俺達は教室に戻る。

高山と杉本、俺が思っていた以上に進んでいる。

こ、これはもしかして俺も杏里と何かした方がいいのか?


「あ、お帰り」


「ただいま」


 席に戻り、ジュースを一口飲む。


「司君。彩音の作業が押してるの。司君の家にみんなで集まって作業したいんだけどいいかな?」


 ブフォーッ!


「ゴホゴホッ……。ご、ごめん、どういうこと?」


「彩音の部屋、狭くて。出来れば私と彩音、泊まり込みで作業したいの」


「二人とも泊まりなのか? だったら俺も泊まりにいく!」


 俺と高山がいない間に何が決まったんだ?

家には杏里の私物がたっぷりあるし、色々とまずいんじゃ?


「杏里はそれで大丈夫なのか?」


「大丈夫。お父さんにも司君の所に泊まるって言ったし、彩音も私と一緒ならいいって」


 話が早い。どうしてそこまで手が回っている?


「そ、そうか……」


「天童! 俺も親にオッケーもらった! 帰ったら泊まりの準備だー! 夏休み楽しくなるぞ!」


 もう連絡したのか、早すぎでしょ。テンションがマックスに近い高山。

その反面、杏里と杉本のテンションがやや低い。


「天童さんの家って、部屋が多くて広いと杏里から聞きました」


「あ、あぁ。まぁ、それなりに」


「今回は絶対に落としたくないんです! 何としても間に合わせたいの! お願いします!」


 そこまで言われたら、しょうがない。

既に杏里はオッケーを出している。


「あんまり綺麗じゃないし、古い家だぞ?」


「場所があれば問題ありません! ありがとう、助かります」


 さっきまで半泣きだった杉本の顔に笑顔が戻る。

どうして家に集まる事になったのか、経緯は全く分からない。

とりあえず早く帰って、対策を立てなければ。


 杏里に視線を送ると、笑顔で返してきた。

ちょっとその笑顔が怖いと感じたのはなんでだ?


「彩音、画材とか一式どうする? 明日の朝、俺も手伝いに行くか?」


「あ、お願いできる? じゃぁ、明日の朝うちに来て、一緒に天童さんの家に行きましょう!」


 杉本も少しテンションがおかしい。

もしかして俺だけテンション低いのか?

杏里は? 杏里はどうなんだ?


「彩音、頑張ろうね! 私もできるだけ手伝うよ!」


「ありがとう! 杏里、大好きー」


 杉本が杏里に抱き着いている。

俺だけかそのテンションについていっていない。

ちょっと寂しいぞ!


「じゃぁ、明日みんながうちに来るんだな。どうする駅まで迎えに行くか?」


「そうだな、荷物もそれなりにあると思うから、最寄の駅まで来てくれると助かるかも」


「駅に着く時間になったら教えてくれ。迎えに行く。杏里はどうする?」


 すでに俺と一緒に住んでいる杏里はどうするんだ?

この二人にはまだその件については話していない。

ま、まさかここで暴露するんですか!


「私は荷物も少ないので、先に司君の家に行って、二人が来るのを待ってます」


「そうか、じゃぁそれで」


 うまくごまかせるのか。

物凄く不安でしょうがない。俺の心臓持つかな……。


「では、期日までに何とかクリアしましょう。彩音の夢への第一歩! 私達にかかっていますよ!」


 杏里もやる気だ。


「っしゃー! やってやるぜ!」


 高山もやる気だ。


「頑張ります! その期待に、応えますよ!」


 杉本もやる気だ。


「あー、頑張ろうな」


 テンション低いぞ俺!


 第一回、夏休みのイベント。

なぜか突然自宅でお泊り会が発生。

さて、一体どうなる事やら……。

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