第487話 管轄

 ソレイユが起きるのを待って、日が暮れました。


「ニイ様」

おじいちゃんがオルランド君と庭師のチャールズを連れてやってきた。


 どうやらチャールズと一緒に、壊れた魔法陣を確認して回ったらしい。広場や街の防御は、全体はキールの管轄かんかつだけど、その中で魔法陣や庭木を使っての敵の撹乱はおじいちゃんとチャールズの管轄だ。


 最初に建物の配置があったんだけど、効率よく魔法陣を使うために、わざわざ建物を削ったり、足したりもしてるみたい。


「こんばんは、騒がせたな。広場は大丈夫そう?」

「何本か駄目にしましたが、ここは育ちがいいのでなんとか……」

チャールズが困ったように笑う。


「魔法陣の方はすぐにでも新しいものを。しかし、また石に刻み、割れてしまうことがあっては同じこと。どうしたものか考えております」

おじいちゃんの返事。


「いや、もうドラゴンは来ないと思うし……」

普通、建材に使っているでかい石は割れません。1箇所くらい割れるかもしれないけど、そんなにバキバキ割れません。


「来ないのですか?」

おじいちゃん、眉毛下げないで! 悲しそうな顔されても困る!


「老師……」

同じく困った感じのオルランド君。普通の感覚代表、ありがとう。お陰で自分の感覚が正しいのがわかる。


「来られたら困る。が、来られても大丈夫な体勢を整えねば……」

キール、どんな防御敷く気だ?


「何と戦う気なんだ……」

「可能性のあるものと」

俺の呟きにアウロが笑顔で答える。


 その言葉に、珍しく真面目な顔でキール、アウロの隣に跪いたままでファラミア、人好きのする笑顔でチャールズが頷く。――チェンジリング的に世界が敵っぽいぞ!?


「あー。積極的に攻めて出るのはやめろよ? 普通の住人に迷惑かけないようにな?」

もうこの際、島に入ってきた敵については好きにしてください。


 チェンジリングは昔から人からの扱いがアレだったようだし、俺の人嫌いどころじゃなく根深そう。


「それはもちろん。普通に接してくださる方には、普通をお返しいたしますので」

笑顔のアウロ。


「まあ、飯にしようか?」

ソレイユ起きないし。


「ぜひ」

「おう! 菓子もよこせ!」

嬉しそうな双子、かすかな笑みを浮かべて頭を下げるファラミア。


「私もご相伴させていただいても?」

「もちろん。ここにいる人数分椅子ってある? ないなら立食で。俺はちょっと作ってくる」

パウロルおじいちゃんもオルランド君もどうぞ。チャールズも。ただ、塔の台所は狭いので、この人数は無理だ。


 あそこで飲食したらソレイユの倒れてる時間が延長されそうだし。


「お手伝いを」

アウロがついてくる。


 【収納】が――ああ、屋上の風呂作る時にバレてるな。契約もあるし、アウロの前で色々やらかしても気にしないことにしよう。


「とりあえず、焼肉でいいかな? 野菜切ってくれるか?」 

バーベキューまで行くと焼き上がるのに時間かかるし……。焼肉とバーベキューの違いは肉の厚さのイメージがある俺です。


「どの程度に整えればいいでしょうか?」

「ああ、こんな感じで頼む」

玉ねぎを輪切りに、キャベツを適当に、ナス、トウモロコシを切ってみせる。シシトウとシイタケはそのままでいいな。


「承知しました」

笑顔で作業を始めるアウロ。


 あまり料理はしそうにないんだけど、器用な男なんで見本があればきっちり同じに仕上げてくれるっぽい。たぶん?


 刃物の扱いがみんな上手いような気がするけど、なんででしょうね……。ソレイユはペーパーナイフを使ってるのくらいしか見たことないけど。


 精霊たちが興味深そうに飛び回り、見て回っているのをそのままに、俺の方も作業に入る。


 少しドラゴン肉出すか。赤いの解体しないと、もうこれでなくなるな。地の民のところに大部分を差し入れしたから。


 あとは、冷麺――小麦粉の澱粉だから、盛岡冷麺だな。お湯を沸かす間に、ゆで卵を【収納】から出して剥く。つるんとね。


 スープを作って冷やし、麺を茹でたらこれも氷水で冷やして締める。氷は当然【収納】からなんだけど、製氷機の魔法陣作ろうかな? 


 冷やす用のボウルや箱は作ったんだけど、氷も気軽に欲しいよね。精霊に頼むにしても、氷を作ることが得意な精霊って、寒いとこにいるし。寒いとこいくなら、天然の氷を切り出してきた方が煩わせないだろうし。


 リシュにはアイス作りに協力してもらってるから、これ以上色々してもらうのもな。


 アウロに切ってもらったやたら大きさと形の揃ったキュウリと長ネギを冷麺の上に盛り、ゆで卵とチャーシュー、キムチを載せる。白胡麻ぱらり。


「できた。運んでくれるか?」

料理の盆と、焼肉用の一式。

 

 もうこの島の親しい人にはバレまくっているような気もするけど、一応は炭とか網とか火台とか、塔の中で【収納】から出した俺です。


「はい、我が君」

余ったチャーシューの端っこを、嬉しそうにもぐもぐしているアウロ。端っこをあげたら満面の笑みを浮かべる無駄な美形。

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