第406話 デザイン

「俺が真面目に契約精霊を増やして、総合的に勇者より――というか、光の玉より周囲の精霊が総合的に強ければ、遭遇自体避けられるはずだし」

勇者の話になるとどうも深刻になっていけない。あれは放置と決めてるので、関わらないようにするだけだ。


 トランプを持ち出す俺。


「そう、精霊とたくさん契約して……。そういう結論に行くのね……うっ」

目頭を押さえるハウロン。


「精霊が絡む話はよくわからねぇけど、ジーンの行動が一番平和そうだな。精霊の力関係とかよくわからねぇけど」

レッツェ。


「強調しないでよ。精霊界はひどいけど人間界は確かに平和よ。精霊界だって、ジーンが無差別に名付けてるおかげで偏りがなくって、その上積極的な使役もないから平和よ! 平和なのよ……っ」


「被害は私どもの常識が揺らいでいるだけですな」

執事が誰とも目を合わせず、明後日の方を向いてつぶやく。


「精霊に詳しいほど、色々なものが揺らぐ」

カーンがボソッと言う。


「しかも、どんどん精霊が名付けられていることを知っているのは、俺たちごく一部だっていうね」

ディノッソが言う。


「そこは諦めろ」

レッツェが言う。


「アタシは見えてる人生で恩恵を被ってるから、精霊が見えない世界なんて考えられないけど。でも見えないっていいわね〜って初めて思ったわ」

レッツェの膝の上を見ながらハウロン。


 視線を感じたのか、レッツェの膝から滑り落ちそうにてろんとしていた大福が、前足を一本ぴんっと伸ばしてあくびをし、丸まり直す。


 俺の膝に引っ越してもいいんだぞ?


「平和、平和」

カードを配り始める俺。


「気づいたら精霊界の半分を手中に収めてるとかしてそうよね……。何をやるの?」

ハウロンが自分の手元に配られたカードをめくる。


「51」

51は絵札を10、Aを11か1と数え、51にもっとも近い数字を集めた者が勝つ遊びだ。Aは11固定とか、ジョーカーを入れるとか、細かいルールが違うことはあるけど。


 とりあえず俺のうろ覚えなルールを適用してやってる感じ。他にも○×ゲームとか、潜水艦ゲームとか、色々やってる。


 今度、将棋の駒でも作ろうかと思っているんだけど、戦略とか駆け引きとか入ると、負けるんだよな……。俺が勝てるゲームってどんなのがあるだろ。


 全員が手元のカードを確認し、ゲームが始まる。平和ですよ、平和。


◇ ◆ ◇


 さて、今日はまた貰った黒檀を加工するために、北の大地に来ている。


 俺の山はそんなに大きくないから平な場所の確保が難しいんだよね。いや、家とか納屋くらいの平なところはあるけどね? 黒檀、でかいから……。


 そういうわけで、荒涼とした平な場所に黒檀を持ち出す。『斬全剣』ですぱっと枝を落として、それぞれ水分を吸い取って乾燥。


 なんか気づいたら乾燥の精霊が増えてた。というか、木材乾燥精霊とかピンポイントすぎるやつが生まれてた。


 いいんだけど、これ定期的に木材乾燥させないと消えちゃう? いや、カーンがベイリスをカヌムで支えているように、俺が魔力で養えばいいのか。


 白いペンキで壁を塗って、赤い屋根をつけたいところだけど、黒檀希望ってことは、黒いのがいいんだろうな、わんわん。


 一応人形ひとがたでも寝そべることができた方がいいのかな?


 ……。


 中は高欄つきの台座におふとん敷いて、お堂みたいなのでいいかな? 少し金箔貼って華やかに――仏壇になりそう。いや、御堂の形をちゃんとすればワンチャン!


 そんなことを考えながら、乾いた黒檀を『斬全剣』で加工がしやすいよう板と材木にしてゆく。


 黒檀だけど、どノーマルな犬小屋もいいなあ。ネームプレートをかけても日本語で書いてあればバレないかな?


 御堂の台座の上に犬小屋でもいいかな? よし、犬型わんわんサイズ犬小屋ならそんなに材木使わないし、両方作ろう。


 高欄のデザインとか透彫とか、地の民に発注かけて――今、俺が渡した材木と精霊鉄とで、だいぶ活気づいて忙しいみたいだけど、きっと新しい黒檀の素材に大喜びで手を貸してくれるはず。


 方針を決めて、黒鉄の竪穴のガムリに話を持ち込み、建具の得意な者、彫の得意な者、それぞれ紹介してもらい、仕事を任せる。


 俺は俺で、こっちの世界の建築をもう少し勉強させてもらう。……って、まず材木まっすぐじゃないまま使いますね? 木組のバランスは経験からですかそうですか。


 俺は俺で日本の技術を思い出しながら伝える。料理は【全料理】なんで、記憶が朧げな日本で見聞きした物、食べたことのある物を簡単に作り出せる。


 でも【生産の才能】は才能なので、朧げな知識ですぐうまく行くかというと、そうではない。


「む、ではこうか?」

「おお、ようやく真っ直ぐに……」

「本当だ! こうやって木を継ぐ方法があったのか。しかも継ぎ目も美しい」


 20分の一くらいのサイズで、地の民の木工職人さんや、建物を建てる職人さんたちと、ああじゃないこうじゃない。俺の朧げな記憶からの日本家屋と技術の再現。


 知力というか、記憶力も上がっているようで、過去に映像で見た日本の職人さんの作業をなんとか思い出して伝えることに成功。宮大工さんの番組だったんだけど。


 周りに散らばる実験に使われ、失敗した白木の割り箸みたいなの。覚えたことを形にするため繰り返し作った、よくわからないパーツの数々。


 その真ん中のテーブルに、部分的に作り込まれたドールハウス――というには少々でかいか? わんわんの犬小屋のミニチュア。


 装飾は一部、見本だけを設置したんだけど、せっせと作ってる人がいるんで、この犬小屋も綺麗に出来上がりそうだ。出来上がったあと、何に使うのか謎だが。


 うん、模型は神社とお寺とこっちの工法と装飾が混じって、なかなかカオスな出来。日本の技術とデザイン、きっちり再現は無理でした。

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