第360話 危険な灯台の記憶
「そういえばナルアディードに灯台ってないな」
こっちでは、係の者が松明振ってたり、篝火をたいていたり。北方で見たことがあるので、ないってことはない。船の出入りが多いのに、ナルアディードに無いのは何故だろう。
「商業の街だもの」
「海運がメインだよな?」
ソレイユの答えがなんかズレている。
「船を燃やされたら困るじゃない。ナルアディードは中立よ」
謎の答え再び。
会話のズレを追求したら、こっちでは灯台が軍事施設だった。いや、もうその技術は失われているらしいのだが――火の精霊の時代にドラゴンの大陸に大灯台があったそうだ。
今でも空気が澄んだ晴れた日は、遠くに大陸が見えるが、大灯台もこちらから見えた記録が残っているという。反射鏡のようなもので明るさを増していたようだ。そしてその反射光を、敵の船めがけて照射して船が陸に辿りつく前に燃やし尽くしたという。
技術というか、火の精霊の強さの問題かもしれない。今は光の玉のせいで、光の精霊の時代に移行しつつあるらしいし、もしかしたら火の代わりに光を使って同じことができるようになってしまったり――そう考えると、物騒なことこの上ない。
灯台を見たらダッシュで逃げよう。幸い、この内海は詳しい海図が出回っており、夜に陸に近づきすぎなければ平気だ。普段は穏やかな海だしね。精霊を乗せている船もあるし。
使い方がよく分からないけど、羅針盤はレトロで可愛いので、買った俺がいる。夜の海を行くのに星の位置は必要だったのだろう、日本とは違う星座がたくさんあるし、ロマンだ。もちろんカヌムからも星は見えるけど、名前が付いているものは少ない。
なお、同じくレトロさに惹かれて買った
「さて、上か」
「まだ半分なのよね……」
途端によろよろするソレイユ。
【転移】が使えないと階段の移動が少々面倒だ。いや、面倒がってはいけない、これも運動だ。
「台所と飯食うとこな」
「ううう、設備、設備が変わって……。鍋も食器も……」
いや、皿の類は変わってないんだが。食器をしまう棚が変わったってことかな?
「こちらは随分涼しいですね」
「ああ、冷えるプレートを置いてあるからな」
作業場にもあるが、まだ稼働させていない。
実は色々飾っている途中で、湿度の調整もいるんじゃないか? となって、飾る作業も途中で中断している。
「ううう。この美しさで熱管理まで……。流しがおかしい……」
流しには蛇口を作ってもらいました。
ただ水は水路から流れっぱなしなので、蛇口を閉めても流しに水が流れなくなるだけで、そのまま排水されるだけだけど。
「こちらは暖炉でしょうか?」
「クッキングストーブというやつだな」
アウロの問いに答えたが、ピンときていない様子。
飯を炊く用の羽釜がはめられるやつで、今現在すっぽり収まっている。黒鉄製の格好よさよ。
『家』にはあるし、その後自分で作って、カヌムのカード部屋にも設置したけど、地の民が作ったこっちの方が断然使い勝手が良さそうだ。
『家』の装備は、俺の記憶とこっちで可能なこととのすり合わせで再現されている。全部作れないことはないけれど、こっちに無いものは対価の寿命を多く使うので、アウト。
こっちに素材があるものは、なるべくそれに置き換えて再現することでコスト削減。IHはもとよりガスレンジも諦めて、トイレと風呂に回した。後悔はない。
「ここはまた後で。上の見学をしてしまおうか」
で、倉庫をスルーして、寝室を案内。内装と家具、ベッドマットに反応するソレイユ。そっとクッションを差し出すファラミア、階段を負ぶって移動するキール。
階段が狭いんで格好良く横抱きできない。梯子じゃないことを幸いだと思ってくれ。元々ホールより上は、梯子がかかっていて、敵が来たら上に引き上げる構造だったらしい。階段は後付けなのだ。
倉庫と、屋上の風呂は見学を省略。
「さてじゃあ、飯に。ついでにクッキングストーブを使って見せようか」
そう宣言して、薪を放り込んで火を付ける。
「このテーブルに傷がつくのが怖い……」
ダイニングの椅子に座って、机に突っ伏しながら指輪を外すソレイユ。机と顔の間にはクッションがあり、突っ伏しながらもこちらを見ている。
アゴ乗せクッション。なんか格好が伏せているリシュに似ている。
このストーブは部屋を暖めるのが目的ではないので、室内にある煙突は短く、すぐに石壁の中に消えて、外に出ている。
まず薬缶をかける。飯を作る時間待たせるのもなんなので、あとは仕込んであったパイを焼いて見せるつもりだ。放り込むのは、もう少し火が均一になってからだ。
今回出すのは、天ぷらうどん、冷奴、いんげんの胡麻和え、トマトのカプレーゼ。天ぷらにはナスも入れて、島で作っているナスとトマトを。
チェンジリングの舌を日本食に染めたいのだが、肝心の米がない。正しくは交配対象のこっちの世界の稲をまだ手に入れていない。
探しに行かないと。
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