第355話 海鳥の精霊
レディローザのとこの精霊でした。姿はマッチョなカモメというか、翼をまるで腕みたいに使ってジェスチャーする精霊で、翼にやたら厚みがある。飛べるの? それで? と一瞬思ったが、そもそも精霊だった。
『魔力はまあまあ美味いんすよ、でもね……』
そして愚痴っぽい。すでに俺は七人目を潰している。
『あ、この話はしましたね』
連れて来た精霊につつかれて、ようやく本題に入る模様。
『あっしの仕事は、サッタルって人間が呼んでる場所に伝言を届けることなんです。そこの2番目に高い煙突の家にですね、こう、ばさばさーって行って、声を届けるんです。こう見えてあっしは貝の精霊ですからね、声を閉じ込めとくのは得意なんですよ』
貝!? ――思わず精霊たちに顔を向けると、海鳥の隣で連れて来た精霊が、違う違うとジェスチャーしている。
『まあ、そりゃ冗談ですがね。そのくらい声を届けるのは得意なんですよ。ただ、あっしは海から遠くには離れられやせんから、そこから先の仕事は別なやつなんですよ』
こいつも癖の強い精霊だな。で、貝の精霊だと音を閉じ込めるのが得意なのか? よく分からんけども、貝殻に耳を当てて潮騒が聞こえるとか、そんなアレでナニだろうか。まあ、精霊については深く考えないものとする。
『何でしたら一番最近の声をご披露しやしょうか?』
『今ここ関係者じゃない人いっぱいだから、明日改めて頼んでいい? 無理なら今、俺が外に出るけど……って、また来た』
地の民を一人酔い潰すと、また次がすぐ来るのでなかなか途切れない。
最初は急性アルコール中毒が頭をよぎってびっくりしたのだが、地の民はそうなる前に意識を失うというか、寝る構造らしく、起きるとすっきりして普通なのだそうだ。
『旦那も忙しそうですし、明日また参りやすよ。最近、声を届けたばっかりなんで、またすぐ呼び出されるってことはそうそうないと思いやすから。今日は顔つなぎってことでひとつ』
『ああ、ありがとう。かまえないけど、二人とも何か食べたいものがあったら、摘まんでってくれ。というか、何かあるか? 持ってるものなら出すけど』
並んでいる料理が偏っていることを思い出して、付け加える。
『あっしは酒を少々。ありがたく』
海鳥の精霊は、そう言ってふわふわ――動作的にはばさばさ――酒樽の方へ飛んで行った。
連れて来てくれたくりんとした目のかわいらしい精霊も、ぺこんと頭を下げて嬉しそうにニンジンの丸焼きに取りついた。
海風の精霊だと思うんだけど、何故ニンジン? 精霊は謎が多い。
その後はほかの精霊もいつの間にか混ざり、料理と酒が消えてゆく。一応、大抵の精霊が楽しめる、水と香りのする花を出しておく。地の民たちは酔っぱらっているか、酔っぱらって倒れ伏してるかのどちらかなので、多少おかしなことが起こっても気にしない。
地の民の場合、正気でもそんなこともある、で受け入れてしまう気もする。そのへんチェンジリングに似たところがある。ルフの末裔は実は地の民かもしれない。
「すまん。そろそろ俺、腹が限界」
酔わないけど、胃の容積がですね?
「島のソレイユ、そんなことだから大きくなれんのだ!」
「待て、黒鉄の竪穴のガムリ。島のソレイユは我ら地の民と違って、人間ぞ。女神の巨木を手に入れた男とはいえ、この立派な腹はさすがに持てまい!」
「持てまい!」
二人に続いて周りが言葉尻を繰り返し、笑い声が上がる。
大きくなれないってそっちか! 確かにみんな立派な腹をしてるが、俺はそこは育ちたくないぞ。
ガムリに話しかけたのは、たぶん
やがてカオスになり始めた宴会も終わりを告げ、北の大地に地の民を【転移】で送る。
赤銀の谷で数人を奥さんに引き渡し、硫黄谷で数人を転がし、黒鉄の竪穴に数人を放り込む。それぞれの住処に酒樽を二つ、大金貨を一つ。
女神の巨木を任されるのなら、報酬は受け取れないという地の民に、今回家具建具を作るにあたって、女神の巨木を渡す時に多めに渡したことでお代は済んでいる。酒樽と大金貨は、とても素晴らしい物を作ってもらったので感謝の気持ちだ。
「島のソレイユ、待て。綱を持ってくる」
少しふらつく足どりで、奥の通路に消えるガムリ。
酔っ払う前に丈夫な綱と、執務机の話をしたら快諾してくれた。執務机は特に、女神の巨木を貰いすぎたってことで、巨木を材料にやはり無料で請け負ってくれた。
確かに女神の巨木は幹回りが俺の塔くらいあったりするし、一本余計に渡すだけでもすごい量な気はする。でも俺が丸太のまま持っていてもしょうがないし、地の民が持つべきものだと思う。
綱は大昔、地の民のご先祖様が作った切れ端が残ってるんだって。それを少し譲ってくれるという約束だ。
リシュのおもちゃはいくつあってもいいと思うし、綱の噛み心地もあるだろうから、他の候補も探す予定でいる。
リシュ喜ぶかな?
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