第266話 見える世界

 昼休憩を終えて、また奥へ。冒険者は未知なる発見を求め、危険な道なき道を踏破する者たち――も、いるけど、大抵は他の仕事に就けなかった体を資本にする脳筋の集まり。得た情報から、取れるものの価値と、自分の安全とを秤にかけて金を稼ぐ商売だ。


 そう言うわけで、夕飯を食った拠点までは足早に進み、その後は金儲け現場に続く分岐のたびに、レッツェが辺りを丹念に調べながら進む。


 新しい傷、ローブを引っ掛けた服の繊維、誰かが踏んでひっくり返したらしい石の色。


「ずっと下になっていた面は色が濃いだろ」

説明してくれるレッツェ。言われれば分かるけど、まず気づくのが難しいです先生。


「下が土ならもう少し簡単なんだがな。でも、結構痕跡を残してる。ぶつかっても何をしても気にしねぇらしい」

いや、分かるのレッツェだけだから。いや、執事もわかってそう。


 二人みたいに認識できるものがたくさんあるのは、世界が広がって楽しそうだけど、そこまでの道のりが遠い!


 二十層で他に二組、それぞれ別な魔銀の採掘ポイントで発見。そのうちの一組は、黒精霊の気配もなく正気だった。普通に道具使って掘ってたしね! 


 正気なパーティーには、当たり前だが自力で眼鏡の元に行ってもらう。事情を知ってびくびくしてたけど、道中は魔物も黒精霊の気配もないから平気だろう。


 二十層に来るには実力不足は自覚あるけど、勇者の後だからって初めて降りてきたんだそうだ。魔銀がちょっとだけ掘れたらしく、仲間に自慢にすると嬉しそう。


 今日の二組目は例のアレです。ちょっと慣れた、慣れたけど嫌すぎる!

 

 夕食の時間が多分すぎてるけど、眼鏡の魔法陣に黒精霊に憑かれたパーティーを放り込む。眼鏡を手伝って荷ほどきしていた二組目からお礼を言われる。


 何人か新しい顔もいて、上から垂らされたロープを固定したり作業中。どうやら鉄籠を降ろす準備をしているようだ。


「さすが早いですね」

「相手すんのが早いんじゃなくって、見つけんのが早いんだよ。精霊が見えなくても優秀よ」

ニヤッと笑ってディノッソが言う。


 あと運ぶのも早いぞ。力持ちいっぱいいるからな。


「間に合ってよかった。黒精霊を捕らえるための装備が届きました、お持ちください」

準備していたのだろう、人数分に小分けにした縄や符を、眼鏡がそれぞれに渡してくれる。


「次来る時きゃ、物資の補給も可能か。水が好きに使えるならありがたいな」

「それは保証いたします」

ディーンが作業を見ながら言うと、眼鏡が請け合って笑った。


 また指先の回復のためにがぶがぶされている眼鏡を置いて、さっさと他の拠点に移動する。夜飯は普通に食いたいし、どうやら夜を徹して鉄籠を降ろすらしく、寝るには騒がしそうなのだ。


 取り憑いた黒精霊はそれぞれ斬ったが、それで消えるってことはなく、まだ体内に残っている。魔力を乗せて斬れば消滅させられるけど、それはしていない。


 手抜きしたわけじゃなく、同化したところからダメージが宿主のほうにも行くのだそうだ。俺が森でひっぺがした人、大丈夫だろうか? 


 どっちにしても同化してた一部は、黒精霊の影響を受けまくりなので、浄化のために神殿行きだ。


 鉄籠の中身を出して、今度は人間を詰めて上にあげることになる。徹夜頑張れ。眼鏡が魔力不足と過労で死にそうな気がするんだが、眼鏡なんでまあいいだろう。


 そういえば、今まで助けた中に眼鏡のお目当ての人物はいないようだった。二十五層行った人かな? 


 偽物君が精霊を喰らうせいで、黒精霊が思ったよりいない。まあ、偽物の進行方向を考えると、黒精霊が逃げるなら二十層か四十層、特に四十層だよな。四十一層からは魔物がそのままだろうし、どうなってるのかわからん。


 逃げ遅れて、かつ、食べられなかった黒精霊が冒険者に取り憑いてる感じなのかな。


「ご飯だ!」

拠点について荷物を降ろす。


「お前、食うこと以外も考えろ」

ディノッソが呆れた声を出す。


「考えてる、考えてる」

ついさっき、黒精霊について考えてたぞ。


「そういえば、副ギルド長に対する物腰が途中で柔らかくなったのはなんでだ?」

レッツェが聞いてくる。


「そんなに変わったか?」

喋ってないのに、そんな違いがあるのだろうか。


「ジーン様は分かりやすうございます」

執事に言われてしまった。


 二人の目が特殊なんだと思います。


「雰囲気があからさまに変わる。お前の機嫌がいいと、そばにいる精霊が取る距離も近くなる」

カーンに言われて新事実発覚。精霊の取る距離が俺の機嫌のバロメーター! 丸バレやめろ!


「……とりあえず、眼鏡は精霊に魔力を多めに吸い取られてて、不憫というか、笑えると言うか、憑いてる精霊がお茶目だった」

「そんなことまで分かるのかよ。一回、ジーンがどういう世界を見てるのか見てみたいな」

レッツェの世界も、教えてもらった以外に色々見えてそうで見てみたいぞ。


「以前、精霊が見える人が怖いと言っていたことがあるよ。別の見える人は美しいとも。見る人によって感じ取ることが違うのかもしれないね、私にはどんな世界が見えるか覗いてみたいよ!」

相変わらず指先を揃えて芝居のようにオーバージェスチャーなクリス。


 顎精霊が健在ですよ。


「ジーンの見ている世界は優しい世界に感じる」

恥ずかしいことをアッシュが言う。


「いや、なんというか精霊のフェチが全開な世界だな」

「なんだそりゃ」

靴を脱ぎながらディーンが言う。


 その足に集ったトカゲ型の精霊と人型の精霊のことですよ!

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