第256話 能力への疑問
眼鏡の魔法をいくつか見て、気づいたこと。発動の呪文は発声と書くやつがあること、あるいはその両方。
指先で何か書くとミジンコみたいな細かい精霊が懐に吸い込まれて淡く光り、それから小さな精霊が来るかんじ。その懐に何を持っているのか気になるところ。
十二層でまた人数が減る。俺とディーンたち、あと知らないパーティーが下に進む。
一晩、二晩泊まって狩りをして、労力に見合う素材が出るのは十三、十四層あたりだそうだ。稀に力試しとか、先人が見つけ損ねた素材がないかとか、崖を使わずに進む者もいる。
大抵は一回行ったら、あとは便利なショートカットという名の崖に向かう。下の層に確実に金になる物があるのが分かってるからだ。大多数の冒険者は金を稼ぐ手段として迷宮に潜ってるだけだ。
十二層の入り口、崖にぽっかり空いた穴で休憩。カロリー補給。食事でもなくおやつでもなくカロリー補給。
二十層までのショートカットは十二層の入り口よりちょっとずれたところにある。降りてきた崖はずっと続いてるけど、二十層に入れる入り口はちょっと離れているのだ。
休憩を終えて、また崖に戻る。
「ここは私が持ちましょう」
眼鏡が言って、腰にくくりつけた袋をごそごそして、壁に何かくっつけた。
崖に一直線に広がるサイリウムみたいな淡い光。崖に張り付くように先人が作った道がある。ずいぶん昔に作られた物で、一メートルくらいの楔が打ち込まれ、その上に目の詰まった丈夫な板が渡され、楔の何本かに一本の割合で鎖がついていて補強されている。
壁に何かしていたのは、魔石をセットしていたのかな? 持つというのは眼鏡の
通路は冒険者ギルドが依頼を出して、傷んだ板の取り替えをしている。崖から斜めに伸びて楔を支える鎖は、安全のためとはいえ通行にはちょっと邪魔。俺とかアッシュとかは平気だけど、カーンとかね!
でもカーン、そしてディノッソも暗闇の中猫のようにするりと抜けてゆく。執事に至っては普段と変わりない足取りっぽい。きっと涼しい顔をしてるんだろうな。
俺はと言うと、思わず通りがかりの風の精霊に片っ端から名付けたね。いざとなったら落下速度を弱めてもらおう。ギシギシしてるギシギシしてる。
不安定な足場から、また真っ暗な崖を降りてようやく二十層に到達する。各階層を歩いてくるより断然早いけど、結構な緊張を強いられる感じ。俺が慣れてないだけかもしれないけど。
二十層の入り口、崖の裂け目に入ってちょっと進んだところで長めの休憩。二十五層までは詳細な地図があり、比較的安全な場所もわかっている。
昼も火はなし。運べる荷物には限界があるので、燃料の節約だ。――【収納】持ちが狙われるってのがよくわかる。
でも松明がわりの草を巻いたやつから火種を新しいやつに移す作業はするので、樹皮を開いて中から出した、古い方の草に風を送って広い範囲を燃やす。処理してあるから燃え上がりはしないんだけど、干し肉をちょっとだけ炙って薄切りのパンを温めるくらいはできる。
温かいとちょっと味気なさが薄れるので嬉しい。
「少し聞いていただきたい。知っているとは思うけれど、私は冒険者ギルドの副ギルド長イスカル。腹を割って正直に話すと、ここへは勇者の痕跡を調べに来ました。そして精霊の様子からして、この階層から下は異変が起きている可能性が高い。慎重に進み、異変が確認できたら誰か速やかに上に戻ってギルドに知らせてほしい。ギルドからこの層で三日活動したよりも多い報酬を出す。場合によっては星も付与しよう」
「そういうことなら俺たちのパーティーが知らせに戻るぜ!」
パーティーメンバーに突かれ、すぐさま声を上げるお隣パーティー。
大丈夫、急がなくてもそれを受けるパーティーはいない。俺とディーンのパーティーだけだからな、俺はパーティーじゃないけど。
「そっちのお前も何が起こってるのかわかるまで、一緒に行動してくれ。ソロか? なら窮屈でもこっちに混じってくれ」
「ああ」
ディノッソに誘われて返事をする俺。ようやく混ざれる……っ!
ちょっと眼鏡と他の伝令の依頼を受けたパーティーがびっくりした顔をしたのは、俺のこと認識してなかったからか。崖での会話は姿を見られてないし、もう忘れられてた感じ? 早いな。
それにしてもこの忘れられる仕組みってどうなってるんだろ? 精霊が姿を現す訳でもなく効いている。最初に神々にもらった能力は全部そうだ。神々の力が強くて、力が及ぶ範囲ならば姿を現すことなく使えるとか、もしくは眷属の力を借りてるのかと思ってたんだけど。
――地図の範囲外だった砂漠でも【転移】できたし、【収納】もできる。地図に出る範囲が俺が契約した精霊の縄張りって推察が間違ってるのか、もらった能力の発動条件がなんか違うのか。身体能力と同じ扱い……?
エンの【収納】はリスが頑張って頬袋に詰めたんだよな。便利だけど、ちょっと仕組みが気になる。
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