第208話 キノコの季節

 翌日は家で貰ってきた木を板にする作業。ちょうど丸いし、薄切りにして床に敷いてみようか。


 精霊が納屋の中を飛び回り、木の根付近の瘤をなでている。納屋の入り口から丸太がはみ出しているのはご愛嬌だ。もういっそ外の方が良かったかな。


 【鑑定】結果で花櫚かりんとかシタンとか呼ばれる木の、なんかこぶができた根の方を『斬全剣』で試しに輪切りにする。現れたのは綺麗な色と模様。


 よしよし、あとで艶出し頑張――


「ああ、やってくれるのかありがとう」

リシュが切ったばかりの面をくんくんと嗅ぐ中、精霊たちが飛び回って断面に触れると表面に飴色がかった艶が出る。


 ……。


 これで水車を作ろうと思ってたんだけど、なんか怒られる気がしてきた。水車の一台や二台……いや十台以上余裕で作れて余りそうだけど。


 最初の予定通り、オークで作ろう。とても硬くて丈夫、こっちでよく利用される素材だ。


 木材を変えて、加工を始める。リシュが端材で遊び始めるのを横目で見ながら、『斬全剣』でサクサクと。いやもう、こっちにきた時に折りたたみの小さなノコギリでごりごりやってたことを考えると天国。


 そういえば、戦乱が続いている中原や魔が棲む場所の近くの家具は丈夫か、逃げる時に持っていける軽いものが好まれる。カヌムの家具が簡単設計なのはどうやらそのせいだったらしく、ナルアディード周辺はもうちょっとましだった。


 水車作りには、あんまり幅は取れないけど、あとで反ることの少ない柾目まさめ板を使う。


 ついでにドワーフの能力を見て覚えた水抜き乾燥を、切り出した後にかけてみた。俺が魔法をかけるそばから、精霊たちが両手を来い来いという感じでふる。


 板が細かく震え、水滴がきゅーっと表面に滲み出て集まり、ビー球みたいな水玉になって精霊たちの腕に向かってふよふよと漂ってゆく。


 お手伝いありがとうございます。なんか無事、このオークも使ったら怒られるやつになった気がするけど、島で使うからいいか。


「リシュ、行くぞ」

精霊たちに礼を言って、出来上がった板や角材を【収納】に入れ、リシュを連れカヌムに【転移】。


 薬草や素材をとりに森に入らない時は、家の中で仕事をしていることになってるので、リリスとリードがいる間はなるべくカヌムこっちで作業をしている。


 俺の山の家よりここの方が涼しい。どっちにしても湿度がないので俺は過ごしやすいんだけど。


 水車の水を受ける羽根の部分や、枠をせっせと作る。八つのユニットに組み立てて、あとは現地でくっつける予定。羽根の角度とか、大きさとか――本当は、水の勢いや地形をみて調整するんだろうけど、流れる水自体が人工なので水量も勢いも調整できる。


 水車小屋は城壁にくっつける予定、職人たちがもう手を入れているはずだ。城塞の船着場に近い、本館側がいいんじゃないかって言ったら、金銀が警備が手薄になるって反対した。


 食料や素材の搬入搬出を考えると橋の反対側で遠いんだけど、作業する人の出入りもあるからって。布作りでも職人が使うことになる。


 で、結局水が豊富になる予定だしってことで、さらに町に一つ、城塞の本館側に一つ追加で、三つ作ることになった。俺が作るのは町のもの、粉挽き屋とパン屋も兼ね、そして隣が風呂屋の予定。


 薪の値段が馬鹿にならないので、どうしてもこうなる。パン屋があるのって、家庭での薪の消費を抑えるためだよな。幸いなことに島は冬でも暖かいし。


 あ、薪を取れるように将来に向けて木を植えよう。火持ちがいい樫でいいかな、乾燥しづらいけど。樫の生葉や生木は他の木と比較すると、燃え難いこともあり延焼防止用に昔の日本でよく隣の家との境に植えられる木だ、防音効果もある。


 町の水車小屋付近にも植えておこう。音がするし、年中火を使うから石造りの建物とはいえ、町外れに作ってあるから植えるところには困らない。


 樫といえばどんぐり、どんぐりといえば豚。でも、確か樹齢三十から五十年の樫の木が、一頭あたり三十本は必要だ。まあいいか、他のものも食わせれば。


 島の4分の一が町と城塞、他は森と畑にする。下手すると城塞の方が町より広いくらい。


 色々考えながら作業をしてると楽しい。そしてなんか訪問者の気配、裏口だしディノッソかな?


 作業をしていた三階から降りて、扉を開ける。


「おう、居たな。これは手土産」

「もう森に行ってきたのか?」

いたのはやっぱりディノッソで、籠いっぱいのキノコをくれた。


「今日は仕事は休み、朝っぱらから家族でキノコ取り! 奥さんのつくるキノコソース美味いのよ」

ウィンクしてくるディノッソ。


 こっちは初夏から美味しいキノコが生える。秋は秋で違うキノコが生えるけど、夏の楽しみだし、勤勉な主婦の間ではキノコの保存食を作る季節でもある。キノコも果物も蟻より早起きして取りに行くのが普通。


 籠の中には大まかに三種類、プルにアンズ茸、ピエブルーというピエの青いの。どのキノコも旨味が強くて美味しいものだ。去年もディーンたちに貰ったなあと思いつつ、ありがたく頂く。


 俺も後でエクス棒とキノコ狩りしようかな。


「で、ノートから伝言」

「うん?」

ノートはリリスから目を離さない感じで、早朝に会わない限り話す機会がない。


「直接お前にゃ関係ないけど、どうやら腕のいい暗殺者を集めてるやつがいるらしくって、消えた面子からして大物狙い、もしかしたら勇者じゃないかって」

「へえ、まあ暗殺されたらされたでいいけど」


 関わりませんよ!


「ナイフ使いの赤毛の死神、黒髪の忌子いみご、子爵のあだ名を持つ暗殺者……」


 ん?


「他にも毒使いと呼ばれるやつとか――俺が知ってるだけでも結構な顔ぶれだな」


 その毒使いパメラとか言わないよな? 赤毛とか黒髪とかなんか知ってる人な気がしてきたんだけど、気のせいだよな? 庭師、庭師もなの?


 俺のところの従業員の、就職技能条件確認しないとだめ?


「どうした?」

「イエ、ナンデモゴザイマセン」

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