第207話 疑惑の尻尾
心の距離も物理的距離も遠かったはずのアウロとなぜか石を積んでいる。
一応、先に来て【収納】から建材は出した。どうやって運んだかは考えないものとする。階段の周りと風呂を設置する場所に土を入れる高さまで石を積む作業だ。
イケメン、土木仕事似合わないな、おい。腕まくりなぞしてるけど、終わった後に肌が顔と肘から下が小麦色なツートンになったりしないんだろうか?
「アウロは日焼け大丈夫か?」
この地域の人って、職人はともかく日向は避ける。ナルアディードをはじめ、建物が密集しているので広場以外は自動的に日陰になってるともいう。
建物の窓が小さいのは、ガラスが高価なだけでなく、陽の光を入れないようにしている面もあるのだ。冬が終わると本当にずっと晴れてるからなここ。
「陽の光は私にはあまり意味を持ちませんので。人の
「いや、俺も平気」
なぜなら【治癒】が普段でも緩く効いているので、病気どころか日焼けもしない。
そしてあれです、二人掛かりでやるよりモルタルを塗ったら【収納】からその位置に直接出しちゃった方が早いんですよ……っ! 材木ほど長くないから微調整簡単だし。
あ、頑張って出し入れの修行をしたら微調整もいらなくなるだろうか? 後で修行しよう。
「……我が君、私は我が君の能力を使うためにはお邪魔でしょうか?」
察しがいいのも困るんですけど!
「我が君の意に添わぬことは、契約を別としても口にはいたしません。私は頭から尻尾まで我が君のもの」
「尻尾!?」
あるのか!?
「ご覧に入れましょうか?」
「いや、いいです」
男の尻は特に見たくないです。
「左様ですか」
笑顔のアウロ。
はっ! からかわれた!?
いや、チェンジリングは元は不完全な聖獣ってディノッソが言ってた。人は我が強いからそのまま乗っ取るのってなかなかできないらしい。だから赤子を狙うんだけど。それは置いといて、人の姿を奪う以前に猫とか犬とかの聖獣だったら、尻尾があったりもするんだろうか……?
……あるの?
「私は下がっておりましょうか?」
そういうアウロの顔が粗相して叱られたゴールデンレトリバーに見えてきた。あかん。
「契約もあるしバラしてもいいけど、俺はいざとなったらこの島ごと捨てて一人で逃げるぞ?」
最初にそれはソレイユを含めて、俺が直接契約した人には話してある。
いつか島を捨てるかもしれない領主だから、人前で取り繕ってくれれば、敬ったりしなくていいと。
「はい、そのようにお伺いしております。その時には身辺を綺麗にし、ご迷惑をかけない状態にしてから、我が君の後を追わせていただきます」
あ。これ
「えー。じゃあ石を置くのは俺がやるから、微調整を頼んでいいか?」
「御心のままに」
一旦、石を【収納】し、モルタルを塗った場所に出す。
「やはり【収納】持ちでらしたか。確かに公にすると面倒ごとが多そうですね」
驚くこともなく、石の微調整をするアウロ。
まあ、この上の建材といい、納屋の大量のガラスといい、全部には関わっていない職人ならともかく、ソレイユと金銀にはバレるわな。訂正、アウロとソレイユにはバレるよね。
キールは未だ菓子の製作者が俺だって気づいてないみたいだし、本当にあの見た目で脳筋らしい。マールゥは薄々気が付いているけど、特に俺と慣れ合う気は無く、騒いでいる割に契約通りの菓子の量があればこちらに何も言ってこないかんじ。
他のチェンジリングも多分気づいてるけど、俺への遠慮もあって絡んでこない感じ。人に興味があるのはチェンジリングの親にあたる精霊であって、どちらかと言うとチェンジリングは人嫌い。
キールは人の部分が多く残ってるんだろう、多分。ちょっと脳筋すぎる気がするけど。きっと大量のガラスを小舟でどうやって運んだんだろうとかは全く考えないんだろうな。口は悪いけど、裏がないのでけっこう好きだ。
アウロのおかげでさくさくと作業は進み、木造を石の柱に変え、屋根をかけ直して終了。屋根は元の屋根を使いまわしている、【収納】は本当に便利。
土はモルタルが乾いたら入れる予定、水が通ってからでいいかな? ヴァンからもらったガラスタイルもそのタイミングだし。
「はい、お疲れ様。予定より早く終わった、ありがとう」
「屋根は1日かけて掛け直したことにしておきます」
笑顔のアウロ。
ああ、そういえばそれを聞きにきたんだったな。消えたり出たり忙しい屋根ですね……。
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