第195話 同時進行

 今日も今日とて森の家。雨の多い季節が終わって、陽気のいい今の時期に終わらせてしまいたい。屋根ができたので安心だけど、半分は木造だし。


 柱と柱の間、細い木を編んだ面に土を塗ってゆく。塗るのは藁と土を混ぜて発酵させたものに、水を混ぜて粘度を調整してたものだ。


 土壁の上に漆喰を塗る予定。腰より下は石壁、上は漆喰の白壁。急勾配の屋根が結構下まで覆っているので、外からはあんまり目立たないけど、中は太い焦茶の柱に白い漆喰の壁と天井の家になるはず。


 最初に塗った土は乾いた時に表面に盛大にひび割れがでる。そこに今度は砂と細かい藁を混ぜた土を、割れ目に押し込むように塗る。伸縮率の低い砂が多めなのでこっちは割れない土だ。ひび割れにぐりぐりすることで、剥がれ落ちたりしなくなる。


 ただひたすら塗っては乾かし、塗っては乾かし。いろいろやり方はあるんだろうけど、下塗りだけでえらいこと時間がかかる。漆喰までたどり着くのが大変。


 リシュはまたエクス棒をがじがじしている。結界からちょっとでもはみ出すと、ユキヒョウと鹿がやってきて騒がしくなるのだが今日はまだ静か。


 少し北よりのここは涼しくって気持ちがいい。鳥の声と時々魔物の声が聞こえる。庭はどうしようかな? ここだけスポットのように陽が入って明るいし、花を植えて森との落差をつけようか。


 そういうわけで、壁を乾かしている間は塔の手入れ。中で作業するので直接【転移】。一部屋というか、一階層は【転移】用に何も置かない部屋だな。


 風呂・寝室・何もない部屋・台所・客を入れる部屋・ホール・倉庫・倉庫・海の見える居間かな? もうちょっと海に近い方がいいんだけど。


 まずは寝室。窓をつける場所に白墨で印をつける、高さはベッドと同じに。床には冷える石版を設置予定、風呂上がりに涼しいという贅沢。こっち冬でも暖かなので暖房のことは考えなくていいだろう。


 で、ここは水の配管、台所まで通さないと。台所からの煙突は分厚い壁の中、配管も壁の中にしたい。その前に――


「いる?」

石壁をこんこんノックしてみる。


 壁からにゅっと青いトカゲが顔をだす。


「こんにちは」

「見える?」

挨拶すると不思議そうな顔をしながら、するっと出てきた。


「見えるし、聞こえる」

「こんにちは」

ぺこっと頭を下げるトカゲ。


「この塔に住んでる精霊でいいのかな? またちょっとうるさくしたり、壁を落としたりするけど、何か止めて欲しいことってあるか?」

「塔ごと壊さないでくれたらいいよ。棲家にしてるけど、僕、強くないからちょっと壁が残ってるくらいで平気」


 崩れかけた城塞だったので、この島にそんなに強い精霊はいない。時々大きいのは風と海の精霊が来るくらい。


「俺は色々改築するけど、全体的に壊すとかはしないから。これからよろしく」

「よろしく」


 先住者の精霊に挨拶を済ませ、作業に戻る。


 山の家とカヌムは場所がバレているので、【解放】されたい精霊がウロウロしているのだが、この島は今の所静か。それでも時々名付けを求めて精霊が来るけど。カヌムと違ってこっちは集まるのを止めずにいるので、そのうち山の家並になるかもしれない。


 まず配管作ってしまおう。森の家は真面目にちまちま作ってるけど、こっちは能力を活かしてファンタジーな塔を作る気満々。


 一番上の階のバルコニーに出て、配管を作ると定めた場所の石に魔法で穴を開ける。周囲に名付けた精霊が少なくても、見知らぬ精霊に頼んでこれくらいならできる。


 熱した石の玉が氷を溶かしてまっすぐ落ちてゆくイメージ。場所は胸壁きょうへきよりの床、塔自体の壁は胸壁より分厚い。


 懐中時計を取り出して、見えるところに置く。


 真っ赤に焼けた球のようなものが俺の手に現れ、それを落とした床はあっさりと穴を開ける。球は石を溶かしながらゆっくり落ちてゆく。


 真っ赤な球の速度は俺の思い通り。懐中時計には秒針がないので、球の落ちるというか、進む速度はことさらゆっくりにした。懐中時計を見つつも、なんとなく数を数えて時間と距離を測る。


 きっかり1分で魔法を消す、水道橋の取り入れ口から水を汲み上げる配管と、排水管の二本。取り入れ口は台所に続いている、排水管はもともとあるので台所の場所は動かさなかった。


 ここは岩礁と潮の流れのせいで舟が真下を通ることはできない――というか、弓矢で狙いやすいコースしか通れない場所、排水は崖を伝って海に落ちるので例え多少飛沫が派手になっても、下を通る舟には迷惑をかけないはず。


 微妙に浄化しなくていいのかとか、ちょっと心配したが、皿や布巾を洗ったとしても、食い残しや洗剤がわりの灰とか、ムクロジの汁とか……。魚の餌になるだけだ。


 台所の流しや、倉庫につける棚、入れるべき家具や設備のサイズを測る。一度、塔の内部は測っているのだが、大物は置く場所を決めたのでもう一度。


 照明をつけるために天井にはりを追加しよう。窓を空けるのは内装がある程度終わってから。


 屋上に咲かせる花はやっぱり薔薇だろうか? あれ、海風大丈夫な種類とかあるのか? せっかく庭師がいるんだし、チャールズに聞くか。


 塔も森の家も楽しい。

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