第172話 大枠決定

 再びの島、金銀から説明を聞いた後のソレイユとの打ち合わせ。参加はソレイユ、金銀。マールゥはナルアディードにお使い中。


「資金があることは確認させて頂きました。ですが資材の輸送にかなりかかっています」

精霊剣は一本で城の値段と一緒と言われている、物によってはもっと。 


 城の値段もピンキリなんで、実はいまいち比較した価値がわからないんだけど、まあ大金だ。でも無限ではない。


「後で足しときます」

「……」

ソレイユと金銀の視線が痛い。


「何で資金を得るのかお伺いしても?」

「とりあえず持っている魔石を売り払う? あ、ダイヤモンドは見かけたら購入頼む」

ヴァンのポップコーン用に。


「数が揃ってらっしゃるのならばこちらで販売いたしますか? 一月後になってしまいますが」

ソレイユは金銀を通して、一か月後に商会を立ち上げるための根回し中だそうだ。潰した商会からもすでに何人か捕まえたと聞いた。


「じゃあ頼もうかな。魔石って歪なのは形を整えたほうが売れるのか?」

「それはもちろん。色や透明度にもよりますが」

「翡翠の腰痛避けって売れる?」

「装飾品として優れていればですね。腰痛の軽減はおまじないみたいなものですし。一つ見本を頂ければ、注文を取ってみます」


 こっちでは翡翠を腰につけとくと腰痛が軽くなるとかそんな迷信がある。オオトカゲの魔石は冷え冷えプレートに使ってもたくさん余るので売り払おう。


「主は島の産業は青い布と考えてらっしゃる?」

「今は藍をちょっとずつ買い集めてるけれど、布を出したら材料が即バレして値下がりそうだな」

「最初に高品質なものを提供できればあとはブランドになりますので、真似をされて値下がる心配は無用でしょう。顧客になりそうな貴族は産地や製造者にこだわります、自慢になりますからね」


 その辺の感覚はちょっとわからないが、前にもどっかで同じようなことを言われた気がするので、こっちの貴族はそういう性癖なのだろう。


 他に島民に新しい野菜や果物を育ててもらい販売を考えていることも伝える。ランタンやら鏡やらあるけど、これは当面作るの俺だけだろうし、島の産業かといわれると微妙だ。


 染色のための場所をどこに設けるかとか、織機を購入して住民に貸し出すとか。染色職人は給与低めに他に出来高払い、織物は――など具体的な体制を詰めてゆく。なんかもう、城の工事が一段落したら生産できる体制をとりたいらしい。


 俺の計画の曖昧な部分を潰すように決めてゆくソレイユ。若干俺の資金的無計画さを言外に責められている気もしないでもない。


「『精霊の枝』はどうされますか?」

「ああ、元あったとこでいいんじゃないか? 城門出た広場の真ん中」

アウロの質問に答える。


「では水盆はどこから?」

「水は城から流すからいらない」

アウロに答える。


「水盆を鐘楼に設置するんじゃないのか?」

キールが聞いてくる。


「置いてもいいけど、今のところは予定ないな」


 『精霊の枝』にも水を汲み上げる陣があって敷地に水を循環させている。水量はとても少なく、精霊に触れた水は回復薬の材料になるしとてもお高い。


 水盆というのは精霊が遊ぶように設けられた水を張った皿であり、この水を汲み上げるシステム全体のことを表す。


「井戸から汲み上げて流すのか? 現実的ではないな」

憮然としてキールが言う。


 岩盤があるおかげで海に浮かぶ島の下にも真水があって、ちゃんと防水しながら掘ればしょっぱい水を飲まずに済む。だけど、固い岩盤を突き破るのはなかなか重労働な上に、深い井戸から毎日水を汲むのも一苦労。


 まあこれはこの島だけじゃなくて、河川が少ないのでこういう深い井戸を用いる国は多い。魔の森の中はけっこう水辺が多い――というか、クリスの弟くんが向かった湿地帯の神殿といい、人の少ない辺境のほうが水が多い気がする。


 なんかあるのかな? 後で図書館で調べてみよう。


「まあ、水のことは気にするな。渡した図面通りに水が通る前提で進めてくれ」


「あれは本気だったのか? 水盆でも井戸でも水量が賄えないと思うがな」

「いいの!」

胡乱な目で見てくるキールに言い切る俺。


「……では広場に面した住居もこのまま改修を進めます」

「水盆の設置は後からできるからな」

「頼む」

諦めたらしいアウロとキールが了承した。


 城門前の広場は真ん中に『精霊の枝』それを囲むように酒場と宿屋、飯屋、あとは店舗と住居兼用の建物。広場から桟橋に続く通路の左右の家を店舗兼用にするかどうかは、まだ迷い中。観光地でもないのに店舗だらけってのも困るし。


「税の種類は?」

「十五歳以上に人頭税、家を持っている人に資産税、相続税、酒税、商売してる人の売り上げに税金。市に参加する時にもらう市場税、住民以外の入国税。農地、水車、圧搾機、俺の持ってるものを使う場合の使用料だろ? 後なんだ?」

ソレイユに聞かれて、指を折って思いつくものを上げてゆく。


 一般的な税金の種類や掛け方、徴収方法などを教えてもらいつつ決めてゆく。あと一般的な法律の確認と罰則罰金とか。面倒だけど、決めた後はソレイユに丸投げなので頑張ろう。


 とりあえず今後一年間は商品売買に関係する以外の税金は免除の方向。元の住民もいきなり税金とか言われても困るだろうし、新しい産業や街が落ち着くまではね。


 だいぶ住民に甘いって言われたけど、こっちの生かさず殺さずな税の掛け方と比べないで欲しい俺がいる。代わりに島に一時的でなく住んだり、家を持つ条件は厳しくした。


 今いる住人以外は、俺の建てた家に入ることになるのである程度選択させてもらうし、ナルアディードみたいに地面が見えないほど家と路地だけの島とかにならないよう人数も絞る予定だ。家の分しか受け入れぬ!


 その前に住みたいと言ってくる人がいるか謎だけどな。


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