第135話 粉挽き三昧
執事たちを背に家に入って扉を閉める。朝飯時に襲撃なんて執事も大変だな。
【転移】しようとしたらドアを叩く音。
「ジーン様」
「あれ、もういいのか?」
「はい、こちらは済みましてございます。お騒がせいたしました――が、スルーするにも他の仕方があったのではないかと」
「通路で戦っているのが悪いと思います」
お説教、お説教の気配。
そして思い切り執事の後ろにさっき戦っていたヤツが倒れていてですね……。そっちは丸出しでいいのか?
カブを逆さまにしたような執事の精霊が、葉っぱのような服の裾を伸ばし、路地に倒れた男を包む。服に見えるけど、服のように見える部分も含めて精霊の本体でこういう形なのだ。
倒れた男の顔がこっちを向いていなかったのもあるかもしれないけど、友人を殺しに来たヤツにはさすがに同情できないし、かわいそうとも思わない。
しゅるしゅると裾が元の長さに戻ると、石畳の上には男どころか血の跡さえもなかった。
ああ、そうですか、執事のその精霊は隠蔽用ですか。
「一般人の対応としては気づいたら避ける、隠れる、でございます」
自分は常識人みたいな顔をしているけど、一般人は路地で戦ってたりしないんですよ、執事。
「いや、ノートが余裕そうだったんでな」
あと早く戻って大福を作りたかった。
「……」
額を押さえてため息をつく執事。
「ああ、そういえば俺の代わりに商人や職人と
あと家畜の世話する人とか掃除とか。
いわゆる家令のお仕事ができる方が希望。面倒ごとを丸投げできる人ともいう。こっちの家令や執事が具体的に何してるか知らないけど。
「人との交渉がうまくて、秘密を守れる方で、いざという時自分で身を隠せる方ですか」
最後言ってない、最後言ってないぞ。
少しあたってみます、と言ってくれたノートと別れて今度こそ【転移】。駆け寄ってきたリシュと一緒に水車小屋に行って白玉粉作り。
一応、水車を壊すような
普通の水車はため池から続く短い水路に板を浮かべて、浮いた大きなゴミはそこで引っかかるようにしていたり、流されて溜まった泥の始末が必要になるらしい。
日本型の水車ってどうなんだろうか? ため池のイメージってないな。勢いよく水路を流れる鮮烈な水ってかんじ。高低差と豊富な水量のおかげで勢いが強いのかな? それとも水車の構造が優れてるのか。
何かの番組で水を受ける羽の大きさとか角度とか、環境によって調整するってやってた覚えがある。ちょっと研究しよう。
昨日用意したもち米を水切りして、ひたひたの水をまた入れて石臼にちょっとずつ流し込む。布で漉して水気を切ったら板に広げて天日干し。
リシュが花を咲かせた草にじゃれついている。春は色々な植物が芽吹き、花を咲かせるせいかうきうきする。
水車に来たついでに他の粉類も轢いて、【収納】にストック。一人分なら手動で石臼をごりごりしてもいいんだが、【収納】できるのをいいことに大量に作っている。
季節季節、食べる分をその場でというのは情緒があっていいんだけど、やっぱり面倒で。他にもやりたいことがいっぱいだし、そっちは気が向いた時に時間を取ろうと思う。
あ、豆腐作ろう豆腐。昼は作りたての豆腐と湯葉、豆乳は大量に作ったのでしばらく楽しめる。
小鍋を用意してその場で引き上げた湯葉を食べる、柔らかく解けてほんのり甘い。日本で食べた湯葉には時々紙みたいに口に残るものがあった記憶があるが、これはうまくいった。
豆腐も口に入れるとふんわり大豆の香りが広がって大変おいしい。薬味はゴマ、みょうが、海苔、若採りした葉ネギ。
柔らかいものが多い中、半殺しの枝豆を湯葉で巻いて揚げたものはパリッとして口当たりが楽しい。
やっぱり作りたてっていいな〜と思いつつ、午後は小豆を煮て大福の製作。小豆を焦がさないようにかき混ぜて餡にして、白玉粉は乾燥したものをすり鉢でごりごりしてさらに細かく。
一般的に北海道産の小豆の場合、上質のものほど餡にすれば紫色になる。丹波大納言の場合は赤い、中国産は黒が濃いめ。同じ小豆でもちょっとずつ色が違う。
小ぶりの大福を大量生産、アッシュ用に苺が顔を出した苺大福も少し。餡子があるから少し酸味のある苺の方がいいかな?
「大福……じゃない、ホワイルは何故ここに?」
出来立ての大福を配りに行ったら大福がアッシュの膝の上に。
怖い顔をしているが、嫌なわけではなくて落とさないよう慎重に膝の角度調整に気を使っているのが原因のようだ。見えてるとそうなるよな。それにしてもうらやましい。こねたい。
膝の上に大福、頭の上にアズ。猫と鳥だけど平和そうというか、アッシュが大変なことになっている。
「夕べはうちの三階にいたんだが、今朝はレッツェのところにいたな。眠くはならない?」
「ああ、それは平気のようだ」
サラの時との違いはなんだろうな?
「サラ様の時のように憑いている状態というよりは、制御されているようですな」
「名前つけて契約してたわけじゃないのか?」
「ホワイルは仮の呼び名でしょう。契約していたならば、あの状態は……。契約後に精霊が何かの理由で力をつけるか、契約条件が緩み暴れ出すこともございますのでないとは言い切れませんが」
「へえ」
憑いてるだけだと気まぐれな精霊主体で色々な現象が起こるが、契約していれば普通は人が望んだ現象が起こる。
「珍しいことですが、精霊の方が契約を望み寄ってきている状態かもしれませんな」
「じゃあ候補は俺かレッツェかアッシュ?」
「はい」
なお、大福は見える組には微妙な顔をされました。
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