第205話 冥王の肉体と人類の進化

近代アスリート……それも格闘技系の肉体について、近代ではこのような考えがある。


 素早く、瞬発力を有した動きを優先するならば


 体の中心に近いほど、筋肉は大きく、前腕やふくらはぎなどの末端に近づくほど細く。


 逆に長距離長時間の運動、持久性を優先するならば


 末端部分こそ、太く――――


 体の中心部の筋肉は大きく力強い。ならば、そこから肩口、上腕、前腕と生み出された力を連動させる効率性を重視する。


 閑話休題まで、もう少し待ってもらいたい。


 なぜこの様な話を挟んだのか? 思い出してほしい。


 最初に冥界でベルトが戦った冥王は老人の姿だった。


 つまり―――― 自らの肉体を自由自在に変化できるのだ。


 ならばやるだろう。 人体構造上、最も戦闘に適して変身を――――


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 その体は異形である。


 体の中心部である胸筋と腹筋は大きく膨れ上がり、風船のような球体になる。


 四肢へと繋ぐ体の付け根は、とにかく大きい。


 肩、つまり三角筋は背筋と一体化して丸太が生えているように見える。


 そして、上腕二頭筋と上腕三頭筋を通り、前腕部分になると極端に細く――――指先になると、矢の先のように尖っているだった。


 足も同じだ。


 さらに弱点である頭部を衝撃から守るように、背筋と三角筋が首と同化いる。


 これが人類が目指す、究極と運動体。 つまり――――


 化け物が現れた。


 その化け物と対峙しながらもベルトは


「そいつは、冥界では見せなかった変身だな」


「あぁ、どっかの誰かが原因で、しばらく人間界を見せられる事になったからな。人の強さを学んだのさ。 特に闘技場でお前と戦った奴」


「なるほど、『不破壊』を参考にしたのか……いや間違った学びだと思うが?」


「失礼だな。 まぁいいさ、人間の進化を受け入れない旧人類もいて当然だ」


「そうかい? それじゃ……」


「……あぁ、始めよう」


 それが開始の合図になる。 

 

 確かに冥王の動きは速い。


 速度においてベルトは人類最速クラス。


 そのベルトが即座に防戦一方に追い込まれた。


 弾く……夢の世界で再現されたベルトの相棒、『サウザウンド・オブ・ダガー』を振り回し、冥王の攻撃を弾く。


 しかし、全てを弾き防御する事は叶わない。


 被弾。


 機動力維持のため、軽装の防具しか有しないベルト。


 僅かなダメージでも、死に至るリスクは大きい。


(速度で負ける。 隙をついてカウンター? しかし、攻撃が途切れない!)


「どうした! ベルト・グリムちゃんよおぉ! 格上と戦うのは久々かぁい!?」


「……吠えるなよ。今、お前を倒す計画を考えてる」


「ふん、吠えてるのはどっちがだ? だが、良い! それでこそ貴様だ!」


(――――ッ! さらに攻撃速度が! 回転数が上がっていく!)


ベルトは自身が持つ移動スキル。複数持つそれをどう使うか、組み立てていく。


しかし――――


(足りない。≪瞬刹駆≫で攻撃を避け、≪暗殺遂行アサシネーション≫で背後に移動……それでも、間に合わない。さらに≪疾風雷神≫を組み込んで……)


「はっはっはっ……考えすぎだ! 戦闘中に新たな技を作ろうとするのは悪い癖だ。鍛錬を積んだ無意識の技こそ最速に至り得るのだ」


 冥王の腕がベルトの胸を突く。 ――――その直前でベルトは横回転で避けると同時に反撃。


 一歩で間合いを――――近づけない。 触手のような手足が行く手を遮る。


 しかし――――


「うむ、それでいい。 基本に戻れ。スキルは補助をせよ。させれば――――


 最速の道は開かん!」


冥王の連撃。ベルトの視界が攻撃で埋まる。


   

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