第190話 聖騎士団の少年

「なるほど、正義の勇者。確かに、この付近で正義の二文字が相応しい実力と名声を有しているのは、聖騎士団。我らの中から勇者が生まれるか」


 フォルス団長は言葉とは裏腹に憂いた表情を見せた。


「……」とこれ以上絡まれるのを嫌がってか? ベルトは、気づきながらも指摘できない。すると――――


「あの……」とメイルが口にする。


「フォルスさんは、何か勇者に対して不安や心配事があるのでしょうか?」


「うむ…… もしも勇者に選ばれたら聖騎士団と兼業できるのか疑問に思ってな」


「はい?」


「我らは、誉れ高き聖騎士団。全員が幼少期から入団を目指して鍛錬を続けた者たち。それが、急に勇者になるとなると……そう考えると、あまりにもその心中を察してな」


「勇者になる事は決して幸せじゃない」とベルトが断言した。


「ほう……」と突然、話に入ってきたベルトににフォルスも思うところがあったようだった。


「良いだろう。 聖騎士団でも腕の立つ者を紹介しよう。もしも、その誰かが勇者だったならば……」


「あぁ、勇者になるかの判断は、自身に任せるさ」


「ふん、良いだろう」


 フォルスは後ろに下がり、腹心らしき人間を呼びに行った。


「えっと、義兄さん。いいのですか?」


「なにがだ、メイル?」


「もしも、これからフォルスさんが紹介してくれた人が勇者候補だとして、本当に勇者の辞退を認められるのですか? そもそも勇者って辞退ができるですか?」


「……できるさ。ダメだと言われて俺が何とかする。例え精霊を敵に回しても」


「義兄さん…… うん、ダメですよ。この町で精霊と戦うみたいな事を言ってわ。『教会』では精霊も神聖な者になるのですから」とメイルは笑ってみせた。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「ずいぶんと若いな」


フォルスが連れて来たのは少年……おそらく年齢は10を越えて数年程度。


「あぁ、聖騎士団で五体満足で成人するのは一握りだけだからな。そういう生き抜いてきた奴も全盛期の奴はいない……流石に40や50歳が勇者に選ばれる事はないだろ?」


「さぁね……精霊からしてみたら人間の年齢を認識しているのか怪しいけどな」


 そう言いながら、少年の様子を注意深く観察する。


 少年にしてみたら値踏みされている感じが不快なはずだが「……」 と無言で背筋を伸ばしている。


 もしかしたら、緊張しているのかもしれない。


 「有力なのはこの子だけか?」


 「まさか……だが、他の連中は遠征している。勇者の神託が正しければ、今現在でこの町にいる者という事だろう?」


 「そうだな……」と少し考えこみ「君、名前は?」


 「はい、アレクです。 苗字は家を出る時に捨てました」


 珍しくはない。 聖騎士団に入り『教会』と神々に生涯忠誠を誓うのならば、二度と家に戻らない覚悟で入団する者。


 そんな少年にベルトは――――


「まずは立ち会うか?」


「立ち会う……ですか?」


「あぁ、君の実力をみたい。何も真剣で戦うわけじゃない。おい! フォルス。なにかいい武器はあるか?」

 

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